894人が本棚に入れています
本棚に追加
病院の裏庭は木々が綺麗に配置され、季節の花が見事に咲いた洋風庭園だ。
遊歩道のあちこちに置かれたベンチの一つに並んで座ると、正志がここに来ることになった経緯を話して聞かせた。
「――えっ、お見合い!?」
「そう、先月あなたのお父上に話をいただいたんだ。まずは一度会ってみて欲しいと」
彼が言うことによると、正志は先月もここに呼び出され、和昌から直々に花保との見合いを打診されたのだという。
――そんな勝手な!
「私は何も聞いていないです!」
父の勝手な行動に腹を立てた花保だったが、正志のほうは落ち着いていた。
「会長は花保さんのことを心配しているんだよ」
「心配?」
「そう、自分は弱っていていつどうなるかわからない。そのあとの花保さんの身の振り方が心配だ……とおっしゃっていた」
長男の和人は社長として会社に注力しなければならず、花保に気を配る余裕はないだろう。
いずれ家庭を持てばなおさらだ。
父親の世話に明け暮れて社会経験のないままで来てしまった娘の行く末を案じた結果、優秀な男と出会わせるという手段を選んだのだ。
「それで奥野さんにそんなお願いを……」
「ああ。会長はあなたのことを本当に大切に思っているんだね」
それを聞いた花保は正志に向かって頭を下げる。
「申し訳ありません」
「えっ?」
今度は正志のほうが驚く番だ。
戸惑う正志を見上げると、花保は改めて謝罪の言葉を口にした。
「我が家の都合に奥野さんを巻き込んでご迷惑をおかけしました。父には私のほうから話をしておくので、心配しないでください」
会長から直々に呼び出されての懇願など命令に等しい。
会ったこともない世間知らずの娘を押し付けられては迷惑でしかないだろう。
しかし花保の言葉に正志がキョトンとした顔をする。
「もしかして僕は断られたのかな?」
――えっ?
今度は花保のほうがキョトンとした。
「僕は今日、君とお見合いをするつもりでここに来たんだけど」
「父に強制されて仕方なくですよね? そんなのパワハラです!」
真剣な顔で訴える花保を、正志がクスッと笑う。
最初のコメントを投稿しよう!