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「――話は大体わかった。つまり結婚当初から正志くんには愛人がいたということなんだな」
「いつから愛人関係なのかはわかりません。しかし祥子という女性とは大学時代からの友達だと紹介されたそうです」
言葉に詰まって上手く話せない花保に代わり、さっきから怜士がこれまでの経緯を順を追って説明してくれていた。
花保と自分は文芸部の先輩後輩だったこと。マンション近くのスーパーで偶然再会したこと。葬儀場で正志の密会現場を目撃したこと。心配になり昨日電話で花保を呼び出したこと……。
そして話が花保が正志と祥子の情事の現場に居合わせたくだりに差し掛かると、「はぁっ!? あいつ一体何やってんだ!」と和人がテーブルを叩いて激昂した。
和人によると、ここ最近、社内における正志の評判は芳しくなかったそうだ。
遅刻や無断欠勤が頻発し、忌引休暇を終えても引き続き有給を申請して出勤していない。
「身内だからこそしっかりしてもらわねばならない。社員の士気にも関わることだから、この状態が続くようなら係長に降格もやむなしと考えていたところだ」
そこに今日、別荘の管理人から『奥野様から別荘を使うと連絡があり食材を揃えさせていただいたのですが、ご請求はいつものように臼井様でよろしいのでしょうか』と問い合わせがあった。
別荘の名義がいまだ和昌のままであることから、次期当主である和人に確認を入れてきたのだろう。
「それでやっと花保と連絡を取れたと思ったら……」
想像もしていなかった状況に和人がしばし黙り込む。
ソファーに背中を預けて腕を組むと、今度は怜士に向かって厳しい視線を向けた。
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