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病室に戻った二人が和昌に付き合うことになったと報告し、正志と花保の交際がスタートした。
五歳年上で穏やかな正志は紳士で優しく、男性と付き合ったことのなかった花保が彼に惹かれていくのはあっという間のことで。
和昌が肺炎になり呼吸状態が悪くなったこともあって、交際してたった二ヶ月で入籍することとなった。
六月の第三金曜日。
花保は正志と共に区役所に婚姻届を提出し、奥野花保になった。
憧れのジューンブライドだ。
父親の容態を考え挙式は行わず入籍だけ。
スタジオで記念写真を撮って慌ただしくマンションへの引っ越しを済ませたのだが、花保のウエディング姿の写真を見た和昌は涙を流して喜んだ。
せめて新婚旅行くらいはという和昌の言葉により、臼井家が所有している那須の別荘で二泊三日を二人きりで過ごすことになった。
「――それじゃ、お父さん、行ってくるね」
出発前に病室に寄り、花保が両手で父の痩せ細った右手を握る。和昌は満足げに微笑んだ。
「二人でゆっくりしておいで」
花保に微笑みかけてから、和昌が正志を見る。
「正志くん、花保をくれぐれもよろしく頼むよ」
「はい」
――やっぱり結婚を決めてよかった。
しっかりと握手する父と夫を見ながら花保は幸せを噛み締める。
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