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「いや、好きっていうのはそういう意味じゃなくて、その……」
「そういう意味ってことにしてよ」
横から怜士が口を挟む。彼は背筋を伸ばして姿勢を正すと、真剣な表情で和人に向き直る。
「お兄さん、俺は高校時代から花保さんに片思いをしていました」
「高校時代から?」
「はい、そうです。そのときは高嶺の花だと告白さえできずに終わりました」
再会し、花保の結婚を知り、やはり仕方がないと諦めた。しかし花保の置かれた窮状を知り、どうにかして助けたいと思ったのだ……と語る。
「そこにやましい気持ちがなかったと言えば嘘になります。俺は花保さんをずっと好きでしたから」
――先輩……。
「けれど信じてください、アパートでは何もなかったし、彼女が人妻であるあいだは手を出すつもりもありません」
花保は怜士とのキスを思い出して顔を熱くする。
たしかにそれ以上は何もなかったので、ギリギリ『手を出さなかった』と言えるかもしれないけれど。
「昨日、花保さんに告白をしました。弱っていたところにつけ込んだという自覚はあります。なので彼女の気持ちが俺に向いてもらえるまでは待つつもりでいます」
そこまで一気に話して怜士はようやく口を閉じた。広いリビングルームがシンとなる。
花保が和人の叱責を覚悟したそのとき。
「待つって言ってもなぁ〜、当の花保が好きって言ってるしなぁ〜」
和人が呆れたように呟いた。
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