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しゅんとした花保の代わりに怜士が口を開く。
「お兄さんは交際反対だということでしょうか」
「今は……な」
和人によると、彼は社長として正志を『臼井フーズ』から解雇するつもりだという。
さらに臼井家当主として花保の離婚手続きを代行し、奥野正志の存在を花保の周囲から完全に排除するのだと宣言した。
「それまでは向こうに突っ込まれる隙を作りたくない」
そのためには花保が清廉潔白でなければならない。
「父の代からお世話になっている弁護士と税理士に連絡を取る。あとは浮気の証拠集めだな」
「それでしたらマンションの寝室のベッドが、その……事後そのままになっていました」
怜士の言葉に和人が「あの男、最低だな」と顔をしかめる。
「マンションの防犯カメラの映像と、別荘の管理人にも証言を頼んでおこう。それと……」
和人が再び花保を見た。
「もう一度聞くぞ。おまえ、弱ったところに優しくされて彼にフラついているだけじゃないのか?」
「違う、私も高校時代から先輩が好きだった」
「えっ、本当に小説みたいだな」
「あっ、俺の小説のヒロインのモデルは花保さんで……」
「本当に小説なのかよ! こんなのもう……妹のために一肌脱ぐしかないじゃないか」
和人が呆れたような寂しそうな表情で呟いた。
「わかった。その代わり俺が許可を出すまでは絶対に会わないと誓え。いいな」
花保と怜士は一旦顔を見合わせてから和人に向かってうなずいたのだった。
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