7、狂愛

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「――えっ、離婚!? それでクビになったってこと!?」  翌日の夕方、祥子のアパートではローソファーに座った彼女が驚きの声をあげていた。 「クビじゃない、自主退社だ。ちゃんと退職金ももらえる」  那須の別荘で二人の時間を満喫し、東京には今日の昼過ぎに帰ってきた。  とうとう役員就任だと胸を躍らせて約束の午後五時に社長室をおとずれた正志だったが、彼を待っていたのは目の前に広げられた浮気の証拠と離婚届、そして退職手続きの書類だった。  ベテランの弁護士が淡々と書類を読み上げ、それが終わると和人が険しい表情で正志を見据える。 『相手の女性もろとも訴えてやってもいいんだが、その時間がもったいない。ここにある書類にサインして二度と花保に近づかないと誓えば依願退職にしてやる』  拒否をするなら徹底的に闘って高額の慰謝料を請求する……と言われ、正志はその場で全部の書類にサインして、退職願を置いて会社を後にしたのだった。 「――離婚って、退職って……それじゃあんたは役員どころか無職ってこと?」 「そうだよ。けれどこれで僕たちは自由な身だ。誰にも邪魔されず一緒にいられる」  嬉々として語る正志と対照に祥子の表情が険しくなる。  ――冗談じゃない。  利用できると思ったから一緒にいただけだ。地位もお金も失った男に用はない。 「……出てって」 「えっ?」 「今すぐここから出て行ってよ!」 「祥子、どうしたんだ」  祥子は戸惑う正志に次々と罵声を浴びせる。 「金のないあんたに価値なんかないの! 寝てやっただけでもありがたいと思いなさいよ!」 「祥子……」 「呼び捨てにするな! 図々しい!」  一歩近づいた正志に祥子が彼のブリーフケースを投げつける。 「目障りだから早いとこ荷物をまとめて出ていって!」 「祥子……っ!」  正志はいきなり祥子の腕をつかんで寝室へと向かう。 「ちょっ、手を離しなさいよ!」 「うるさいっ! 黙れ!」 「ひっ!」  過去にない正志の怒鳴り声に祥子が肩をすくめる。  彼はベッドに祥子を勢いよく押し倒すと、彼女の服を乱暴に剥ぎ取った。 「本当にやめてって! この馬鹿っ!」  パシッ!  ――えっ?  足をバタつかせて暴れていたら、頬を勢いよく(はた)かれた。  恐怖で茫然としているあいだに正志も全裸になっている。彼がゴムを被せていない己の下半身を握りしめるのが見えた。 「祥子、結婚しよう……」 「嫌っ、来ないで……嫌っ……」  ズルズルと後ずさるもヘッドボードに頭がぶつかるだけだ。  身体をひるがえしてベッドから下りようとしたところで後ろから髪を引っ張られる。  勢いよく仰向けになった直後、正志が身体を重ねてきた。  ズンッ! という衝撃に続いて生の感触がナカを往復する。 「嫌ぁーー!」 「愛してるよ祥子、愛してる……」  ――こんなの違う! 私は1番の女になって、玉の輿に乗って……。  けれど祥子の心の叫びは、もう誰の耳にも届かない。
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