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「わかった。いろいろ準備してくれてありがとう。迎えにきてくれて嬉しかった」
花保の言葉に怜士の瞳が熱を持つ。
「俺こそ一緒に住む決心をしてくれてありがとう。だからそろそろ名前を呼んでくれないかな」
――あっ!
いつかの彼の言葉が蘇る。
『今はまだ先輩のままでいい。けれどいつか花保の決心がついたそのときには、『怜士』と呼んでもらえたらと思う』
――あの頃はまさか本当にそうなるとは思っていなかったけれど……。
「……怜士、あの日、私を救ってくれてありがとう」
耳元でそっと囁くと、間髪を入れずに抱きしめられた。
「俺のほうこそ……勇気を出してくれて、ありがとう。俺は幸せものだ……」
――そんなの、私のほうこそ……。
結婚前は夢見ていた。
いい奥さんになりたい。お互いを思いやる温かい家庭を築き、その先には穏やかで優しい未来が続いていて……だなんて。
残念ながら最初の結婚ではそれが叶わなかったけれど、今目の前には疑うことのない『愛』がある。
「朝起きて隣に花保がいて、笑顔で『おはよう』って言ってくれて。寝る前に『おやすみ』って言ってくれれば、それでもう十分……あっ」
怜士がそこまで告げたところで言葉を途切れさせた。
「どうしたの?」
花保が瞳をのぞき込むと、怜士が顔を赤らめつつ遠慮がちに口を開く。
「いや、花保がいてくれれば十分なんだけど……でも、ぜんぶ俺のものにできたらな……って」
「ぜんぶ……」
言葉の意味を察した花保も赤くなる。
「……駄目かな」
「駄目じゃない……よ」
「寝室に行く?」
「……はい」
手を引かれ、二人でベッドルームへと向かう。
昼間の光がカーテン越しに差し込む部屋の中、花保はダブルベッドにゆっくりと身体を横たえられた。
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