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一方そのころ、祥子のアパートではすっかり薄汚れやつれた祥子を正志が見下ろしていた。
部屋にはインスタント食品の容器やゴミが散乱し、見るも無惨な状態だ。
「やっ、嫌っ、こっ、来ないで!」
床に尻餅をついたままズルズルと後ずさるも、ベッド柵に手錠で左手を繋がれている祥子の動ける範囲など限られている。
「来ないでってば!」
手に触れた本を投げつけると、それが正志の額に当たり、血がにじむ。
正志は顔色ひとつ変えずに自分の額に触れる。血のついた手のひらをじっと見てゆっくりと視線を上げた。
虚ろな瞳が祥子を見据える。
「わっ、私は悪くない!」
正志は無言で祥子に近づいていく。
「嫌っ、来ないで!」
正志が目の前にしゃがみこみ、祥子が目を見開く。恐怖で顔が引き攣っている。
彼がゆっくり手を伸ばす。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 嫌ぁ〜っ!」
正志は自分の手のひらについていた血液を祥子の頬にベッタリと撫でつけた。
そこを舌で舐めあげてから、濡れた床を見てニコリと微笑む。
「……またお漏らししちゃったね。まるで赤ちゃんみたいだ。でも大丈夫だよ。僕が綺麗にしてあげるから」
正志は濡れ雑巾を取ってくると、慣れた手つきで床を拭く。
――よかった、今日は殴られなかった……。
危害を加えられなかったことに安堵して、祥子は「ほっ」と息をつく。
そのとき。
「……でもね」
祥子の肩がビクッと跳ねた。
「僕、燃やしちゃうから」
「えっ?」
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