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「参りましたよ、あと二分早く出れば良かった」
「はっはっは。それは残念でしたな」
老人は柔らかな笑い声を立てると、鼠色のポロシャツの胸ポケットから透明の小瓶を取り出した。小瓶の中には薄黄色の砂が入っている。
「これをあなたに差し上げましょう」
「あの……これは、砂ですか?」
「ええ、時の砂です」
「時の砂?」
「少量摘んで落とせば、その分少しだけ時間が戻る」
「まさか、冗談を」
私が鼻で笑ったのを気にも止めず、老人は小瓶から砂を手のひらにほんのわずかに取り、さらに親指と人差し指で摘むと、パラパラと地面に落とした。何だ、まじないのような物か。
そう思い、顔を上げると目の前にバスが停まっていた。慌てて腕時計を確認すると、針はバスの発車時刻である十二時四分を指していた。
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