時の粒

7/13
前へ
/13ページ
次へ
 バスに乗り遅れた頃の、冴えない中年親父だった私は最早そこにはいなかった。バラエティ番組で、投資志願者に罵声を浴びせ、「金が欲しいだけなら持って行け」と土下座する志願者に札束を放ったシーンが話題になった。  勿論、やり過ぎた自己演出をしてしまった際は砂粒を落とした。  私はこの世の全てを征服した気分になった。誰にも、私を否定させない。そして、出来やしないのだ。  砂粒はまだ小瓶に半量も残っている。その気になれば、この世界を手にすることも可能だろう。私は有頂天の最先端に立っていて、その足場が実に脆いことにさえ気付きもしなかった。  六本木のタワーマンション。その最上階に帰ると、妻の聖子が私を玄関まで出迎えた。 
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加