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バスに乗り遅れた頃の、冴えない中年親父だった私は最早そこにはいなかった。バラエティ番組で、投資志願者に罵声を浴びせ、「金が欲しいだけなら持って行け」と土下座する志願者に札束を放ったシーンが話題になった。
勿論、やり過ぎた自己演出をしてしまった際は砂粒を落とした。
私はこの世の全てを征服した気分になった。誰にも、私を否定させない。そして、出来やしないのだ。
砂粒はまだ小瓶に半量も残っている。その気になれば、この世界を手にすることも可能だろう。私は有頂天の最先端に立っていて、その足場が実に脆いことにさえ気付きもしなかった。
六本木のタワーマンション。その最上階に帰ると、妻の聖子が私を玄関まで出迎えた。
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