時の粒

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 私は常に多忙を極めていて、この家に帰ることが非常に稀になっていた。贅沢な話かもしれないが、例え高速のエレベーターがあるとは言え、タワーマンションの最上階まで上がるのが面倒だったのだ。  生まれて初めて女の肌を覚えた聖子を抱きたい時にのみ、私はこの家に帰って来る。普段は愛人として囲っている他所の女に貸し与えている家を泊まり歩いていた。  「孝史さん、お久しぶりです。お食事にしません? 用意は済んでるの」 「すまないが、もう済ませてある。それより……」 「ねぇ、たまにはお話ししましょうよ、ねぇ、いや!」  私は嫌がる聖子を食卓テーブルの上に押し倒し、無理に口付けをした。唇を閉じて顔を背ける聖子を眺めているうちに、私が否定されていることに興奮を覚え、私は力を込めて聖子の身体をテーブルに押さえつけた。
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