センシティブ青年

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「あの、派遣の人に書く紙、持ってます?」 「はい、タイムチェックですね。予備もありますよ」 「時間は九時、十八時でつけるんで、もう上がってもらって大丈夫です。今日はありがとうございました」 「まだトラック来てないですよね?」 「はい、あとは俺らでやるんで。大丈夫ですから。お疲れ様でした。サイン書けば良いんですよね?」 「いやいや、仕事らしい事を何もしていないのに、サインを頂く訳にはいかないですよ」 「本当、大丈夫なんで。トラックもいつ来るか分からないんで」 「そんな詐欺みたいなこと出来ません。椅子に座ってボール投げて一日分の給料が出るなんて、おかしいじゃないですか。何の為に私を呼んだのですか?」 「マジでもう大丈夫なんで、本当お疲れさまでした。お願いですからもう上がって下さい」 「仕事らしいこと、まだしていないんですよ。そっちが呼んだのに、こんなのっておかしいですよね?」 「俺らの為だと思って……お願いします。この通りです」  二人に頭を下げられた船崎青年は渋々タイムチェックの紙切れを手渡し、サインをもらうと胸ポケットに仕舞い込んだ。  顎髭からは「悪いけど、駅までは歩いて帰って下さい」と言われたが、元々そうするつもりだったので、船崎青年は二人に頭を下げて現場を後にした。  時間はまだ十時半を回ったばかりで、船崎青年は活き活きと輝く緑を眺めながら山間の道路を駅に向かって歩き始めた。  こんな日はラッキーと思えば良いのだろうか。派遣会社の人間から「なんで帰ったんですか?」と電話が掛かって来たら、なんて答えよう。帰って下さいとお願いされたからだと、そう言えば良いのだろうか?  靄が晴れない胸中でそう思いながら歩いていると、前方から低いモーター音が聞こえて来て、やがてカーブになった緑の奥から四トントラックが姿を現し、元来た道へ向かって進んで行きそうなのが分かった。その途端、胸中の靄がスカッと晴れるのを船崎青年は感じ取ったのである。 「なんだ、やっぱり来たじゃないか!」  船崎青年は楽しげな声を漏らすと、バッグの中に軍手とカッターが入っているのをしっかりと指差し確認をし、その目で確かめた。そして、今しがた通り過ぎたばかりのトラックを全力疾走で追い掛け始めるのであった。
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