センシティブ青年

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「あの、私は何をしたら良いのでしょうか?」 「あぁ。まぁ、座んなよ」  髭なしが壁際に立て掛けられていたパイプ椅子を広げ、そこを指差した。部屋の真ん中に置かれた小さな木製テーブルの上の灰皿は既に十本近くもシケモクが溜まっており、時間の経過が伺えた。 「遠くから来てもらって悪いんだけどさ、資材積んだトラックが来ねぇんだよ。連絡もつかねーし。だから、しばらく待機で」 「トラックが来たら、私は何をすれば良いんですか?」 「資材卸して、二階まで運んでくれる? それが今日のあんたの仕事だから」 「船崎です」 「名前なんて覚えねーから、いいよ。おじさんでいい?」 「おじさん、それは私のことですか?」 「だっておじさんじゃん。俺ら、二十五だし。こいつ、ヒロシっていうんだけどさ、子供三人いるんだぜ」  ヒロシこと顎髭は、頼んでもいないのにスマートフォンの待受画面を船崎青年にチラリと見せた。男の子三人と顔を寄せ合い、幸せそうに笑う家族の写真がそこに映っていた。あぁ、自分とは生涯縁のない世界の人だ。船崎青年はただ、そう思う他に感想らしい感想は特に生まれなかった。髭なしの職人はコウジと言うらしく、顎髭が指を差して「こいつ、コウジ」と、短く紹介した。  コウジこと髭なしはスマートフォンでスロットゲームをやり始めると、画面に目を落としながら船崎青年に質問を投げかけた。バキュン、ズガーン、バーン、という派手で重みの欠片もない音が部屋を埋めて行く。
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