『片想い発電機』

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『片想い発電機』

 バスの待機所を眺めていた。  待機所内でバスを方向転換させるための回転台があるんだ。しばらく眺めていても飽きなかった。  回転するものが好きだよ。  君がケーキを回転台の上に乗せてクリームを塗る様子を覚えているよ。  僕と君も、ずっと回り続けていることが出来たら、よかったのにね。  回転台で方向転換したバスは待機所で静かに出番を待つんだ。  どのバスも『回送』という黄色い表示を頭にくっつけたまま待機している。バスは集団で『回想』してるんだ。  僕にはそう見えた。  宵闇の中で肩を寄せ合って回想しているバスたち。    たこ焼き屋、超新星(スーパーノヴァ)の店先のベンチでバス待機所を眺めながら、僕は君がどこかで美味しいたこ焼きを食べたり、ケーキを食べたりして、笑っているといいなと思った。  たこ焼き屋超新星を覚えている?  坂の途中にあって、あそこからバス待機所がよく見えた。  たこ焼き屋なのに大げさな名前だって、君とよく笑い合ったよね。  僕がいなくても君が楽しくやっているなんて、想像もしたくないと思ってた。  君と別れる前もひどいことばかり言ったし、君と別れてからも、頭の中で、手ひどく君を罵ってた。  君が生きて、誰かと幸せに過ごしていたら、それは素敵なことだって、今日初めて思えたよ。  たこ焼き屋超新星の前で、初めて君の幸せを願うことが出来た。  さみしいのは、君にもう、何も伝えられないこと。  たとえこの先そっと、どこかですれ違っても、君の人生は僕とは関係ないところを回っているんだ。    バスが回送しながら回想してる、だなんて、僕は君に伝えられなくなっちゃったんだ。  頭に浮かんだちょっとした素敵なことや面白いこと、君に伝えたかった。  あんなひどい言葉じゃなくて。  紫色から紺色へ段階的に変化していく空。  バスは並んで静かに回想を続ける。  『回送』の文字が時々呼吸するみたいに明滅する。点いたり、消えたり。  君との思い出が、たこ焼きの匂いの中に明滅していて、ほんのちょっぴり心をあっためてくれた。  さみしくてたまらないのに、心の中で君に呼びかけると、ちょっとだけあったかくなる。  発見だった。  君の隣で、伝えたかった。  君のこと好きだったよ。 《 おしまい 》
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