同級生に似た人

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同級生に似た人

僕の名前は波木静夫。 ネットビジネスの会社の代表をしている27歳。独身、彼女なし。 社員は既に皆帰り、今日もひとりで残業をしていた。 冷え込んできたな、と思って窓の外を見ると、雪が降っている。 この降り方だと、朝までには積もるに違いない。 仕事はまだ残っていたけれど、昨日も徹夜で会社に泊まり込みだったから、 今日は、もう帰ることにした。 バスに乗ると、ラジオの音声が流れていて、高校生の頃流行っていた懐かしい曲がかかっていた。 あの頃、クラスメートがこの曲が好きでよく聞いていたな、と思い出しながら音楽に耳を傾けていると、誰か小さく口づさんでいる… 斜め前に座っている、大学生位の女性だった。 髪型は違っていたけれど、この曲が好きだったクラスメートに似ている気がした。 その人をじっと見詰めた。 なぜだか、目が離せなかった。 すると、彼女が振り返った。 目が合って、思わず同級生の名前を言った。 「近藤美世さん?」 「いいえ、違いますが…。」 「失礼しました。 昔の同級生に似ていらしたので。 つい…」 「そうですか…」 そういうと、その女性は前を向いてしまった。 懐かしいような、胸が締め付けられる気がした。 次のバス停が近づくと、その人は降車ボタンを押して、バスを降りていった。 僕も慌てて立ち上がり、バスを降りた。 その人を行かせてはいけない気がした。 何故かは、わからなかったけれど。 その人を追い掛けて、声を掛けた。 「あの…」 初めて逢った人に声を掛けるなんて、 ナンパと思われるだろう… でも、声を掛けずにはいられなかった。 「はい?」 その人は、振り返って 不思議そうな顔をして立ち止まった。 「何か…?」 「あの…、急に声を掛けてスミマセン。 怪しい者じゃありません。 僕はこういう者です。」 と会社の名刺を差し出した。 「もし、良かったら少しお話出来ませんか? 高校のクラスメートにとても似ているので、気になって…」 本当は、それだけじゃなかった。 でも、それしか引き留める理由がなかった。 「あ、スミマセン。失礼しました。 急に声を掛けるなんて怪しいですよね。 お急ぎでしょうから、お引き留めして申し訳ありませんでした。」 いくら気にかかるからって、いきなりはダメだよなと諦めて、頭を下げて立ち去ろうとした。 すると、 「あの、…少しなら30分位なら… 大丈夫ですけど…」 遠慮がちな彼女の声に呼び止められた。
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