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付き合おうか?
「潤子ちゃん、小学生の時も可愛かったけど、綺麗になって分からなかったよ。
今、大学生?」
「2年生です。」
「そっか。
じゃあ、彼氏に謝っておいてよ。
昔の知り合いと偶然会ってお茶しただけで浮気じゃないって。」
「なんでですか?」
「だって、彼氏いるでしょ。
大学生なら。」
「いませんよ。
勉強が結構忙しいし、今日みたいに声掛けられたりしませんから。
掛けられても、断りますしね。
だから、さっき誘われたとき、
なんで断らなかったのか、
自分でも不思議だったんです。
でも、理由がわかりました。」
「理由って、なに?」
「私、昔お兄さんに片想いしていたんですよ。
お兄さん、凄くモテたでしょ。
私は、子どもだったし。
遠くから見ているしかなかった。
だからきっと、声を掛けられたとき
お話したいなって思ったんでしょうね。
まさか、昔憧れてたお兄さんとは思いませんでしたけれど。」
「じゃ、今は付き合ってる人いなくてフリーなんだ?」
「私、見た目はどう見えてるのか分かりませんけど、一途なんです。
天秤にかけるとか、試しに付き合ってみるとか出来ないんです。
だから、今だけじゃなくて、
お付き合いしたことないです。
片想いばかり。」
「ほんとに?
でも、申し込まれたことはあるでしょ?」
「ええ、まぁ。何度か…」
「でも、断ったわけ?」
「そう…ですね。
一緒にいて、話していて楽しくないのに、取りあえず付き合ってみるなんてできないです。
友だちには、頭が固いって言われますけど、性格なんで。」
「そっか…」と僕は腕を組んで考えた。
「そうするとさ…、
今久しぶりに会ったばかりで、
もし僕が交際を申し込んだら、
軽いやつって断られるのかな?」
「そんなことは…ないです。
お兄さんが優しくて正義の味方なのは分かってますし。
ズルしようとした中学生を追い払ってくれたでしょ。」
「そんなことまで覚えてるんだ。
でも、人間って変わるからね。
僕ももう狡い大人かもしれないよ。」
「それは、私も同じですよ。
もう、明るくて元気なだけの女の子じゃなくてがっかりするかもしれませんよ。
ただ、私が今まで交際申し込まれても付き合わなかったのは、たぶん昔憧れていたお兄さんより素敵な人がいなかったから、だとも思うし…。」
「ほんとに?」
「そう自覚してたわけじゃないけど、今考えると、そうかも、と…思ったんです。」
「じゃ、僕と付き合わない?」
「お兄さんこそ、彼女さんがいるんじゃないんですか?
相変わらずカッコイイし、会社の代表?
若いのに偉いんですね。」
「偉くはないよ。
仲間と立ち上げた小さい会社だし、
この歳まで“約束の人”が現れるのを待ってたから、
付き合ってる人もいないし。
だから、さっき君を見つけて思わず後を追い掛けたんだ。
見失ってはいけない気がして。
そう、“約束の人”じゃないかって、
頭じゃなくて身体が反応してた、たぶん。」
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