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ホールには新入生20数名を取り囲むように、在校生数百名がずらっと整列していて、威圧感と緊張感があった。
挨拶と戦争は短いほうがいいとは言うけれど、学校長の挨拶はすごく長かった。
学校長はいかにも魔導師という感じのローブを着ていて、しわがれた声で淡々と語り続ける。
「新入生諸君は、クルティス魔法学校の生徒であることに誇りを持って行動していただきたい。ご存じの通り、我が校の卒業生から成るクルティス魔法騎士団は、国王陛下を支える名誉ある騎士団である。諸君らの行動が騎士団にも影響を及ぼし、ひいては国王陛下の名をおとしめることになりかねぬ」
そんな話を何度も繰り返しているので非常に退屈。
チャロは「今日はどの子と抱きかかえて寝ようかな」と、ぬいぐるみのことを考えていた。
ベルタは完全に心を無にして、ただその場に立っているという感じ。校長の言葉を耳に入れていないという意味では寝ていると同義かもしれない。
一方、アウラは一言一句聞き逃さないよう、常に神経をとがらせて聞いていた。そこにきっと重要な情報があると考えてのこと。
国王はいくつかの騎士団を抱えてる。
その中で、剣ではなく魔法を主体に扱う騎士団は、この魔法学校と同じ名を冠するクルティス魔法騎士団だけ。国王は一番信頼していて、戦争のとき必ず同行させている。
魔法騎士団の属する者は、一階級の扱い受けるという優遇もあって、数ある騎士団の中で一番手とされることも多い。
ようするに、魔法騎士団が最強ということ。
形式上は、建国のときに活躍したという、アルカデルト戦士団が一番えらいことになっているけれど。
そんな地位も名誉もある魔法騎士団に入れるのは、この魔法学校で魔法の訓練を受けて優秀な成績な収めた生徒のみ。
そういうわけで、生徒たちは己の立身出世のために、高い学費を払って国中から集まってきてる。
騎士団入りのチケット競争はすでに始まっていて、失態を見せまいと、みんな直立不動で真剣な顔をして、学校長の話を聞いていた。
ここに集まっているのは、お金持ちや名士のお坊ちゃま、お嬢ちゃまばかり。
もちろん、それぞれの事情があるので、チャロたちのようにそんなに真面目じゃない生徒もいる。魔法学校に入って卒業するだけでも、十分エリートだから。
一方、アウラは怒りに震える体を押さえるのに必死だった。
(あいつが学校長……。殺すべきうちの一人……!)
やせてるけれど、ローブには勲章のたくさんついていて、威厳の誇示が強い。年はおそらく60を超えている。しわの入った顔に、白く長い髪とひげ。きっとすごい魔法力を持ってるに違いない。
アウラはしっかりと特徴を頭に刻み込む。
このホールには、対象としている人物が他にもいた。
魔法騎士団のトップである騎士団長。
入学式に甲冑を着て、大きな剣を下げて参列しているので、ものものしい雰囲気がある。
おそらく、あれが生徒みんなの目標。あんなすごい騎士になりたいと思って入学し、畏怖と一緒に尊敬のまなざしを送ってる。
でも、アウラにとっては目標ではなくて標的。
アウラが魔法学校に来た理由とは……。
魔法学校、魔法騎士団を潰す。
今はただの12才の少女でしかなく、国内最強の魔法騎士に敵うわけがなかった。だからこの学校で魔法を学んで、力をつける。
(いつの日か絶対、魔法騎士を皆殺しにしてやる!)
アウラは入学式で決意を新たにした。
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