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「チャロ、全力でやって!」
「えっ、でも……」
チャロは金棒を持ってたじろいでる。
今は防御魔法の実技中で、パートナーが金棒で腹を打ち、防御魔法で耐えるっていう、すごく原始的な受け身訓練だった。
ようするに、チャロは全力でアウラをぶん殴らないといけない。
「大丈夫! ちゃんとガードするから」
防御魔法は極めれば鋭い剣だって防ぐことができるから、普通の少女が魔法を使わずに振った棒なんて楽勝……のはず。
強くなるためには何事も全力で挑まないといけないから、アウラはチャロにそうオーダーしたわけだった。
「あ、うん……。わかった、いくよ!」
チャロは決意を固めて、金棒を振りかぶる。
「そりゃあっ!」
フルスイングした金棒が私のお腹にヒットする。
「がふっ!?」
衝撃のままにアウラは後ろに倒れ込んでしまう。
「あ、あああ……ああ……」
肺の空気が体内から全部抜けるような感じだった。
アウラはお腹を押さえ、激しい痛みと吐き気にうめきもだえている。
つまり失敗。かかった防御魔法が弱すぎて、その効果を貫通してダメージがもろに入ってしまった。
「アウラちゃん、大丈夫!?」
「だ、大丈夫……」
チャロの問いにアウラは引きつった顔で答える。
もちろん全然大丈夫じゃない。
けれど、死ぬのはもっと痛いんだと思えば、なんとか堪えられた。
「手どかして! 治すから!」
チャロはアウラのお腹に手を当て、回復魔法をかける。
内臓が潰れてしまったんじゃないだろうかと思うほどの痛みが、ゆっくりと治まっていくのを感じた。
服をまくり上げてお腹を確認するが、赤くも青くもなっておらず、アウラは安堵の息を吐く。
「ありがと、チャロ」
「無理しちゃダメだよー。アウラちゃん、防御魔法苦手なんだからー」
アウラは防御魔法がすごく苦手だった。
攻撃魔法の授業は好調だったけど、なぜか防御と回復はほとんど機能せず、かなり苦戦していた。
魔法は個人の性格や性質によるので、得意不得意はしょうがないとされる。でも、アウラほど極端なのはレアだとか。
チャロは回復特化だけど、他が使えないわけじゃなかった。
「俺が手本見せてあげようか?」
そう言ってきたのはベルタ。
防御特化で本当に防御がうまい。
「う、うん……」
悔しいけどその技術はすごく欲しいので、アウラは頼んだ。
「チャロ、俺にも全力で」
「わかったー! そーれっ!!」
さっきと違い、チャロはのりのりで金棒をフルスイング。
「はっ!」
ベルタが気合を入れると魔法が発動して、金棒はベルタのお腹にぶつかる直前でぴたりと静止した。
「う、動かない……!」
チャロはそのまま押し込もうとするけど、金棒はそれ以上進まなかった。
「すごい……。どうやってやったの?」
「んー、よく守る意識が重要って言うけど、俺の場合、負けないって意識が強いかな。金棒の攻撃を受けてたまるか、ってみたいな?」
「負けない、か……」
それはアウラにもわかる気がした。
アウラが攻撃魔法を使うときも、似たような意識を強く持っている。
「魔法の源は感情。自分が持ちやすい感情をうまく操るのがいいと思う。詳しくはわからないけど」
「ありがと、ベルタ。次はできる気がする。チャロ、もう一回やって!」
アウラはその後も金棒の直撃を何度も受けることになる。
魔法の得意不得意はどうにもならないようだった。
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