入学

5/9
前へ
/11ページ
次へ
「チャロ、全力でやって!」 「えっ、でも……」  チャロは金棒を持ってたじろいでる。  今は防御魔法の実技中で、パートナーが金棒で腹を打ち、防御魔法で耐えるっていう、すごく原始的な受け身訓練だった。  ようするに、チャロは全力でアウラをぶん殴らないといけない。   「大丈夫! ちゃんとガードするから」  防御魔法は極めれば鋭い剣だって防ぐことができるから、普通の少女が魔法を使わずに振った棒なんて楽勝……のはず。  強くなるためには何事も全力で挑まないといけないから、アウラはチャロにそうオーダーしたわけだった。 「あ、うん……。わかった、いくよ!」  チャロは決意を固めて、金棒を振りかぶる。 「そりゃあっ!」  フルスイングした金棒が私のお腹にヒットする。 「がふっ!?」  衝撃のままにアウラは後ろに倒れ込んでしまう。 「あ、あああ……ああ……」  肺の空気が体内から全部抜けるような感じだった。  アウラはお腹を押さえ、激しい痛みと吐き気にうめきもだえている。  つまり失敗。かかった防御魔法が弱すぎて、その効果を貫通してダメージがもろに入ってしまった。 「アウラちゃん、大丈夫!?」 「だ、大丈夫……」  チャロの問いにアウラは引きつった顔で答える。  もちろん全然大丈夫じゃない。  けれど、死ぬのはもっと痛いんだと思えば、なんとか堪えられた。 「手どかして! 治すから!」  チャロはアウラのお腹に手を当て、回復魔法をかける。  内臓が潰れてしまったんじゃないだろうかと思うほどの痛みが、ゆっくりと治まっていくのを感じた。  服をまくり上げてお腹を確認するが、赤くも青くもなっておらず、アウラは安堵の息を吐く。 「ありがと、チャロ」 「無理しちゃダメだよー。アウラちゃん、防御魔法苦手なんだからー」  アウラは防御魔法がすごく苦手だった。  攻撃魔法の授業は好調だったけど、なぜか防御と回復はほとんど機能せず、かなり苦戦していた。  魔法は個人の性格や性質によるので、得意不得意はしょうがないとされる。でも、アウラほど極端なのはレアだとか。  チャロは回復特化だけど、他が使えないわけじゃなかった。 「俺が手本見せてあげようか?」  そう言ってきたのはベルタ。  防御特化で本当に防御がうまい。 「う、うん……」  悔しいけどその技術はすごく欲しいので、アウラは頼んだ。 「チャロ、俺にも全力で」 「わかったー! そーれっ!!」  さっきと違い、チャロはのりのりで金棒をフルスイング。 「はっ!」  ベルタが気合を入れると魔法が発動して、金棒はベルタのお腹にぶつかる直前でぴたりと静止した。 「う、動かない……!」  チャロはそのまま押し込もうとするけど、金棒はそれ以上進まなかった。 「すごい……。どうやってやったの?」 「んー、よく守る意識が重要って言うけど、俺の場合、負けないって意識が強いかな。金棒の攻撃を受けてたまるか、ってみたいな?」 「負けない、か……」  それはアウラにもわかる気がした。  アウラが攻撃魔法を使うときも、似たような意識を強く持っている。 「魔法の源は感情。自分が持ちやすい感情をうまく操るのがいいと思う。詳しくはわからないけど」 「ありがと、ベルタ。次はできる気がする。チャロ、もう一回やって!」  アウラはその後も金棒の直撃を何度も受けることになる。  魔法の得意不得意はどうにもならないようだった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加