それぞれの愛の形

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だけど田舎者の僕はこれが都会なんだと思ってしまったんだ。やっぱり都会は違うんだな、て。こんなこと大っぴらには出来ないけど、でも陰では普通にしていることなんだ。だからそれを知らないなんて田舎者丸出しで恥ずかしいって思ってた。 でも違うんだって。 その子は確かに恋愛対象が同性の人もいるけれど、だからと言って痛くて苦しいことを相手にはしないという。 『相手が同性だって、好きな人に酷いことなんてしないよ』 そう当たり前のようにいい、ずっと我慢していた僕に呆れていたみたいだけど、僕はそもそもその行為が痛くないことを知らなかったのだから、わざと痛くされてるなんて思わなかったんだ。だけどそうなると、ますます僕は彼に愛されていなかったんだと思い知らされる。 その事が心に突き刺さる。 胸が痛い。 苦しい。 そう感じるのはどうしてだろう。 この痛みはなんの痛み? 本当は違うのに、愛されていたという勘違いへの恥ずかしさだろうか。 だって普通に考えたら、この3年間僕はずっと彼に愛されていたと思っていたんだ。それも、その行為があればあるほど強く愛されていたって。 だから毎晩訪れてくれるのが嬉しかった。なのにそれが違っていたんだ。どんだけ僕はイタイ奴なんだろう。 僕は彼の体のいい性の捌け口だったんだ。 その事実がきっと、僕の心を痛くしている。 だけど、その彼とはもう終わった。一方的な別れだったけど、却って良かったんだ。 だってこれで勘違いしたまま痛いことをしなくて済んだし、こうして僕を好きだと言ってくれる子と出会えたのだから。 それにとても気持ちのいいこともしてくれる。 本当に麻薬のように、癖になりそうなくらい気持ちが良くて、だからまたしたくなった。だからもう一度しようと思ったんだけど、なぜだろう。なんだか気持ちが悪くなる。 気持ち悪いと言うと語弊があるけど、なんだかゾワゾワして嫌な感じがしたんだ。あんなに気持ちが良くてまたそうなりたいって思ったのに、いざそういうことを始めたら、その子に触られた所がざわついて落ち着かない。それにキスをしてくれようとしたのに、僕はそれを無意識に避けてしまったんだ。 なぜだろう。 自分から誘ったのに。 だけどそんな僕のことを敏感に感じとったその子は、その行為をやめてしまった。確かにキスは避けてしまったけど、無意識だったし、次はちゃんとする。そう言ってもその子は頑なに続きはせず、昂った身体を処理するためにトイレに行ってしまった。それだって僕がするって言ったのに、トイレに行ってしまったんだ。 悪いことをした。 せっかく良くしてくれたのに、きっと僕への思いなんて冷めてしまっただろう。 そう思ったのに、その子はそれからも変わらず僕に優しかった。 『まだ別れたばかりだし、きっと心が混乱してるんだよ。だから待つよ。あなたが落ち着くまで』 そう言って、その子はこのまま家にいていいと言う。 本当にいいのかと思ったけれど、実際行くところもないし、次の家を探すまでいさせてもらうことになった。と言っても1DKの部屋だ。僕の荷物をしまうところもなく、使う度に出し入れすることにした。だからしばらく気づかなかったんだ。バッグの底に知らない封筒が入っていたことに。なんだろうと出したそれは結構な厚みがあり、なんと中にはお札が入っていた。数えたら30枚も入っていた。 もちろん僕のものでは無い。 じゃあ誰の? 違うとは思っても聞いてみたら、その子はいきなり怒り出した。 『本当に最低な奴だね』 なぜそんなことを言うのかと思ったら、それは彼からの手切れ金ではないかという。 今まで酷い扱いをしてきた僕が、それを後から訴え出ないように金で口封じをしたんだという。 本当にそうなのだろうか。 そんなお金が無くても僕は彼を訴える気は無いし、もう会うつもりもない。だからこんなお金は必要ないのに。それを言ったら、それはあくまでも僕の考えで、あちらはそうは思ってないという。
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