それぞれの愛の形

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なぜそのままなのか。 だけどさすがに傷んでいるであろう冷蔵庫の中の食材をそのままにしておくことはできなくて、僕はそれらを処分しようと手に取った。 だけど・・・。 賞味期限が新しい。 中に入っていた食材は、物も位置も僕が出ていった時のままなのに、それらは全て新しかった。さらに驚いたのは、僕がストックしていた常備菜は中身はなく、綺麗に洗われたタッパーのみが置かれていたのだ。 どういうこと? 見た目はまるで僕が出ていった時のままなのに、それらは全て僕が置いたものではなく新たに置かれていたのだ。 それは何を意味するのか。 どきどきした。 意味は分からないけど、それは決して普通のことでは無い。 僕は冷蔵庫を閉めて、今度は自分が使っていた部屋へと向かった。 本当は早く帰らなければならない。もし彼が起きてきて出会してしまったら、気まずいなんてものじゃい。たとえ酔った彼の介抱だったとしても彼はいい気はしないだろうし、不法侵入と言われてもおかしくはない。だけど、僕はどうしても見てみたくなった。僕の部屋を。 僕は3年間使っていた部屋のドアを開けた。 ここもあの時のままだろうか。 そう思った僕の予想は見事に外れた。 正確に言えば、部屋は変わっていない。 家具の位置もインテリアも、僕が自分好みに揃えたままだ。だけどそこは、明らかに僕が出ていった時とは違っていた。 どうして・・・? 起き抜けのままのベッド。そしてその上には脱いだままの部屋着が無造作に置かれ、部屋の壁には僕のではないスーツが掛けられていた。 僕は中に入るとベッドの上の部屋着を手に取った。そしてそれを無意識に抱きしめる。 彼の匂いだ・・・。 ぎゅっと抱きしめたそれに顔を埋めると、彼の匂いがした。 ここで寝てる・・・? 他の部屋と違ってここは生活感に溢れていた。 彼の部屋のクローゼットの服はこの部屋に移され、無造作に置かれているのは洗濯済みの衣服。 彼はここで多くの時間を過ごしているようだった。 キッチンもリビングも僕が出ていった時のまま、時間が止まっていたかのようだったのに、ここだけは明らかに時が流れている。 僕は部屋をぐるりと見渡した。 僕の部屋は何一つ変わらず、けれどそこに彼の痕跡が沢山あった。クローゼットを開けると僕が知るスーツがかけられている。だけど僕のクローゼットは小ぶりだから全部入り切らず、壁にも掛けられていたのだ。 壁のは知らないのばかりだ。 おそらくサイズが変わって買い直したものだろう。僕の知る彼のサイズよりも小さい。 やっぱりすごく痩せちゃったんだ。 上着を脱がせた時に見えたシャツ越しの身体に、心配な気持ちが湧き起こる。 なんであんなに痩せたのか。 それはゴミ箱の中身を見て分かった。そこにはゼリー飲料のゴミが沢山入っていたのだ。サイドテーブルや床に転がるのも飲み物のペットボトルしかない。それにお酒の空き缶も沢山転がっていた。 潔癖とまではいかないけれど、彼はそれなりに綺麗好きで部屋は片付いていた。ゴミだって溜めたことは無い。なのにここは、この2週間で溜まったゴミがそのまま置かれていたのだ。 だけど食べ物のゴミはない。 もともとコンビニやお店のお惣菜は好きではなかった。だから僕はいつもごはんを作っていて、お昼も前は大学の学食に行っていたみたいだけど、僕と一緒になってからは別れる直前までお弁当を持って行っていた。 だから僕は毎日三食ごはんを作り、週末にはまとめて常備菜を作っては冷蔵庫に入れていたんだ。 そう言えば常備菜のタッパー、空だった。 もしかしてそれを全部食べてしまったから、ゼリー飲料を飲んでいたのだろうか?だけど、別にアレルギーがあって市販のものが食べられない訳じゃないし、いい大人なんだからお腹が空けば何かしら食べるはずだよね。 だけど、彼の激ヤセした身体を思い出す。 常備菜だってあくまでも副菜だ。しかも一週間分くらいしか無かったはずで、その後ゼリー飲料しか飲んでいなかったとしたら、あんなに痩せていた理由はつく。 本当は彼が何を考え、そして何を思っていたのかなんて僕には分からない。だけどこの3年間は、あの子が言うには僕に酷いことを僕にし続け、恋人が出来たと言ってはあっさり捨てた。
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