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黒く咲いた百合へ。
あなたに会いたい。
私の想像で生まれたあなただけど、私の手から巣立って歩いていくはずだった。
あなたの原点は人が減り、若い力が失われつつある過疎地。
そこに根付いた伝統文化。
高度経済成長期に発展を遂げ、祖父の背を追いかけた。
大きな背中を見て育ち、祖父の愛した地を守ると意気込み立ち上がった。
届かぬ背を追いかけて追いかけて、傷だらけになってもまた立ち上がった。
誰にも認めてもらえない。
それでも努力さえしていればいつかあの輝かしい日々を取り戻せるのだと信じて走り続けた。
皮の厚い手で木を彫り、かぶれやすいその手で漆を塗る。
ボロボロになったその身体であなたは祖父の生きた世界を取り戻そうとする。
希望を込めて光る石を投げた。
月明かりに輝くいとおしい人に目を細め、届かぬ想いを胸に抱く。
愛おしいと思いながらも縛り付けてはいけないと手放した。
ひとり、今日もあなたは漆器をつくる。
誰にも認めてもらえない独りよがりな作品を作り続ける。
時々満月を見上げて拗らせた想いを募らせた。
傷だらけのあなたはその地に残り、いつまでも若者と呼ばれて笑っている。
自分よりも若い人が笑って器に絵付けするのを眺めていた。
金色の浮かぶ椀を見て、自分の作る漆器との違いに口元を歪める。
満月のあの子を思い浮かべて、かぶれたその手で漆を塗る。
朱と深い漆黒が混じるそれを見て、あなたは届かぬ想いに蓋をした。
今日も、明日も、いつまでもこの想いは拗らせたまま。
蝕んだ闇にのまれてあなたは川に身を投げる。
そんなあなたを生み出して、私はあなたに会いたいと願う。
想像の世界に生きる黒く咲いた百合を想い、私は筆をとる。
あなたの生きた地。
あなたが守りたいと願った場所。
おじいさんの愛したその地は燃える。
あなたの原点が燃えた黄昏の時、大地は揺れてやけに呼吸を意識する時間が続いた。
この世界にあなたはいない。
だけどあなたの原点が燃えて、あなたは何を想う?
私はあなたに会いたいと思った。
あなたの原点が燃えたと意識した途端に涙がとまらなくなったよ。
あなたは現実にいない人かもしれないけど、きっとあなたのような人がいた。
あなたに会いたい。
きっと、あなたは満月を見つめるばかりで今日も膝を丸めているかもしれない。
それでもいいよ。
私の中にいる満月があなたに手を伸ばす。
私の中で生きた愛する人。
今はただ、あなたに会いたい。
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