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俺達はまたしても図書室の夏目漱石の前で待ち合わせた。
これが最後だ。
明日から元の関係に戻れる。
ただ俺の中にいるこいつは何処にもいかないだろう。
行ってくれないだろう。
簡単に消せやしない。
だって俺もきっと心を動かされたから。
あんな風に真剣に俺に気持ちを伝えてくれた初めての人だったから。
そう、それだけだ。
でもそれだけで充分なんだな。
お前は凄い奴だよ、水上。
だってドン引きされる可能性の方がどう考えたって高いのに覚悟を決めて俺に言ってくれたんだもんな。
俺の目を真っ直ぐに見て、堂々と。
かっこいいよ、お前は。
躊躇いなく好きな人の手を取りたいんだもんな。
それが同性であったとしても。
受け入れてもらえる保証なんか何にもないのに勝負に出たんだもんな。
当たって砕ける気があったんだもんな。
じゃあ俺も一緒に砕けるよ。
「相原」
来たな。
決着の時だ。
あれ、これ昨日もやってたっけ?
まあ、いいや。
ラスボスは何度倒したっていいからな。
さあ、エンディングの時間だ。
最高に盛り上がる音楽を用意しろ。
ここからが最高潮だ。
「水上」
「うん」
「俺」
「待って、返事今じゃなくていいよ」
「はぁ?」
「返事は二万年後でいいよ」
「はぁ?お互い死んでるだろ?俺が嫌だわ」
「だって聞いたら終わっちゃうから」
「終わっていいだろうが」
「やだ。もうちょっとこうしていたい」
「ワガママかよ」
「だって猪助からも聞いてないし」
「は?」
「猪助から好きだって言われてない」
「夫婦だったんだろ?」
「うん。ちゃんと結ばれてたよ。でも俺は言ったけど、そういえば猪助からは言われなかったなって」
前世の俺、なんて奴だ。
こいつを限界までこじらせてさっさと死にやがったのか。
「俺はそんなことしねぇよ。ちゃんと言う」
「いいよ。二万年後で、何なら一生言わなくていいよ」
「何ここでヘタレてんだよ。しゃきっとしろよ」
「振られたら死ぬかもしれないよ」
「振られねぇよ」
「相原、それって・・・」
「そういうことだよ」
「そういうことって?」
「察しろ」
「好きだよ」
「はいはい」
「二万年後でいいからね」
「そうですか」
「大好きだよ。相原も同じ気持ちってことでいい?」
「そう思ってくれて構いません」
何だよ。
だからその笑い方辞めろって。
嫌、違う。
ずっとその顔で笑ってろ、コンチキショー。
まあ二万年以内には言ってやるよ。
いつか、いつかな。
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