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新生活
「……これで承諾してくれるんだな?瑠璃」
「………………はい。」
不貞腐れたようにそう言って部屋を出る。高校卒業後、結婚することが決まったらしい。正直言って予想はしていた。如月瑠璃はこの地域一帯を占める如月組の一人娘なのだから。
「(急に畏まって何かと思ったら、結婚話だなんて…)」
電車に乗ってそんなことを思う。幼い頃から婚約はしていた。しかし、瑠璃は純真な乙女である故に「愛する殿方と結ばれたい」という夢がある。そんな瑠璃にとってよく知りもしない殿方と愛のない結婚をするなんて言語道断であった。
『次は京都、京都ー』
キャリーケースを引きずり、電車を出る。よく知らない風景、人、町-
本来彼女の立場上一人でここに、ましてや三年間も滞在するなんて許されないことである。ではどうやって許可をもらったのか。答えは一つ、交渉を持ち掛けたのである。瑠璃が指定した条件とは「この結婚については承諾する代わりに如月家の者は高校三年間一切如月瑠璃に干渉しない」というものだった。実に許し難かっただろう。しかし、絶対にこの結婚は破談にできない。瑠璃の父はやむを得ず許可した。
「…たった一度の高校生活だもの、思う存分楽しまなくちゃ!」
そんな瑠璃を歓迎するかのように桜が吹雪いた。
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