月待花の耳飾り

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月待花の耳飾り

ティティ視点 キラリと青色鮮やかに光るフィア様の耳飾りが揺れる。 佳宵花ーーーー別名、月待花とも呼ばれる花を象った青い輝石。それにどんな想いが篭められているのか、目の前で無邪気に微笑む愛らしくも可愛らしい美少女の女神、メイフィア様は気が付いていない。 言ったほうが良いのか、言わずにいたほうが良いのか悩む。 追跡機能が追加されている様な気もするし。 深海に咲く蒼蛍華の魔石化した物を削り出し、花の形に研磨したそれは、目玉が飛び出て戻らなくなる程の値段がするだろう事は、公爵令嬢レイティティアとして生きてきた十数年でもわかる。 それを元に、一度はフィア様の疑問を逸らすことが出来た。 ーーーーどうしたものでしょうか。 悩む私を他所に、ジャーン!と口で効果音を出しながらキノコのお菓子を出すフィア様は、持って帰る?なんて言いながら、二箱分を油紙で作った紙袋に入れる。 見舞いに来たはずなのに、私の方が頂いてしまう。 同じ故郷を持つ気安さと安心感も手伝って、遠慮なく貰う。タケノコも。 ただ、この安心感は同郷だからだけじゃなく、フィア様の持つ雰囲気とか、性格からもきていると思う。 初めて会った死の谷から、神々しい威圧を知った今も、それは変わらない。 そんなフィア様は、ふと眉を下げ、心配そうにカーク様が出ていった扉を見る。 「カーク兄様大丈夫かなぁ」 手が早いと噂の火の神が、実は一途だったのには驚きだが、きっと尼僧までも口説くと言うある意味事実が、背ビレも尾びれも付きまくった結果だろう。 噂は当てにならないとは当に、だ。 そんな事はおくびにも出さず、大丈夫だと思いますよ、と返す。 ロウ様が言うには、フィア様はいつでもーーーー無意識に、最善の選択をするのだと言う。 理路整然と筋道を立て、あらゆる情報を精査し予測をーーーーなんて事はしなくても、所謂『終わり良ければ』の結果に導くのだそう。 フィア様が絡む場合に於いては、作戦は大まかで、取り敢えずフィア様投入、掴んだモノに対してフォローをする方が上手く収まるらしい。 片眼鏡を光らせてあの方の場合は「野生の勘」ですね、なんて呟かれた。 だからなのか、フィア様が関わっていると、カーク様の件も何となく大丈夫そうに思えるのだ。 うん、東の君は良く見ていらっしゃる。 対して、ラインハルト様は「フィア可愛い」以外の事は何を考えているのかイマイチよく分からない方なので、思考的に放置気味だ。 この方の本性は、時空神のライディオス様らしいけど、フィア様の側近を人間から選ぶと創世神様が仰った為に、死にゆく赤子ーーーー人の子の身体を貰い、自分の核を入れて分身にしてしまうなんて愛が重い。 他に理由もあったらしいけど、神様事情は人は知らずにいた方が良いだろう。 その、人の子の身分が、千年以上前のカスタリアのラインハルト王子の身体だったので、分身は名もそのまま、カスタリア王子の籍を使っている。 同時に存在する事が(しかも別々に動く)出来るなんて、やっぱり神様なんだなと改めて思う。 思考も感覚もリンクしているらしいけど、慣れないと物凄く面倒で、酔うらしいとはフロース様が仰ってらした。 そんな重すぎる愛情の形のホンの一部があの耳飾りにはある。 月待花は、月明かりの下でも恥じらい俯く乙女に例えられる。 ピンポン玉の大きさで、下向きに咲く可憐な風情の花は、逢瀬を約束する恋人に贈られたりする事があるのだ。 ランプの灯りも無く、月明かりだけの空間で、乙女が恥じらう状況。 ーーーーそんな事フィア様に言えません! 特にそれだけの意味しかない••••訳では無いので、普通に恋人に贈る花だと言えばいいとは思いますけど! 実際、フィアリスの花はプロポーズに良く使われるけど、月待花は初々しい恋人に贈る事が多い、筈。 この花は昨今の研究で、土壌によって花の色が変わると分かっている。 要は与える栄養に色が左右されるのだそう。 与える栄養(あいじょう)によって。 象った花の、その色がまさにトルマリンなブルーで、金の煌めきがあるなんて。 強過ぎるお力の為に、地上に降りる事を他の神々よりも更に制限されるライディオス様の瞳の色も、トルマリンブルーらしい。 と言うか、ラインハルト様の外見は、ライディオス様のお姿をそのまま写した様にそっくりなので、当たり前よね。 核を入れた影響らしいけれど。 「ね、ティティ、お夕食一緒に出来る?お泊りも出来たら嬉しいな」 一緒にパジャマパーティーしようよ!と、無邪気にフィア様は言う。 転移で直ぐに戻れるからこその提案なんでしょうけど。見た所フィア様もお元気そうなので、パジャマパーティーは大賛成ですが! 今日、明日は一日開けているとも言ってありますけどもーーーー。 メガトン級に重い愛情の塊の出処ーーーーラインハルト様はどうするのでしょう。 いつも、その、いらっしゃいますよね? 女の子同士で、と設けられたこの場は、恐らく腹黒い方々と腹黒い話し合いをする為に譲られたに過ぎない。 それは指定された時間からしても、容易に想像できた。 さて、どうやってフィア様の夜のお供を譲って頂きましょうかーーーー? 青色耳飾りが返事の様に一度煌めいた。
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