冒険者登録を希望します

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 大神殿の奥宮、私の室は昼間でも静かだ。  儀式から大神殿の中枢は、上へ下へと目まぐるしく動いているが、ここに来る神官は、大神官たるディオンストムが報告に訪れるだけで、他の神官は位が高くても立ち入りは許されていない所為もあるだろう。  ロウの室は、結構出入りが激しいし。  因みにラインハルトは私とずっと一緒にいるので、折角用意された室も、使われていない。  広すぎる位に広い空間だからいいけどね。  いつの間にかガレールの離れから持ってきたのか、私の私物もきちんと片付けられ、ガレールにいた時と変わらない生活が出来るようになっていた。  気が付けば、お花組と宝石組の侍女も揃っている。  御見舞に来てくれたティティにはお礼をしたけどーーーーガレール公爵にも直接お礼を言いたいんだけどなぁ••••外出まだ許してくれないのかな? 他にも外へ出たい理由があるんだけど、言うべきタイミングが中々掴めない。  そんな事を、窓際でぼんやりと考え込んでいたら、梳いて垂らしただけの髪が風をはらむ。  開け放たれた窓からの風がそよぐ。 何となく、秋めいた涼しさを運ぶ気配を楽しんでいると、ラインハルトにカーテンを閉じられてしまう。 「熱が下がったばかりだろう。肌を直接風にさらすのは良くない」  私の熱が下がったのは四日も前だし、なんならティティとパジャマパーティーもしましたが? 「ラインハルト、過保護じゃない?」  この分だと言おうとしているお願いが、聞いてもらえるか不安だ。  私のお願いは、大抵聞いてもらえるのだけれど、ラインハルトが一度『ダメ』って言うと、覆すのが難しい。そしてそれは、ロウよりも、難しいのだ。 「そうか?そうでも無いと思うぞ。過保護と言うなら、ロウの方が余程だろう」 過保護を否定したラインハルトの左耳を飾る紫色の輝石が、一瞬だけ金を帯びた。 つい先程、付けてくれと頼まれた耳飾りだ。それは、紫の月。 ーーーーお値段が怖いので、何の石なのかは聞かずにおこうと思っている。 落ちた目玉が床しか見えなくなりそうなので! ラインハルトが、長い脚を余らせるように動かして私の側に寄れば、ヒョイッと持ち上げられてしまう。 私を抱きかかえたそのまま、ソファーに座る。 背後から抱きしめられた状態で、それがほんのり暖かい。 「ほら、身体が冷たくなっている。外出を延ばされたくは無いだろう?」 「もう外へ出ても良いの?!」 それは朗報、吉報!やったね! 私はラインハルトの腕の中で、身体ををクルンと回して正面に向き直る。 「このまま熱を出さずに、食欲が元に戻ったらな」 おお!?これはもしや、お願いのチャンスがきたのでは!? ソワソワしてしまいそうな身体を、ラインハルトのシャツを掴む事で抑える。 「ラインハルト、あのね?ーーーーお願いがあるの」 真剣さを出す為に、ラインハルトを見上げて言う。 「ーーーーって、ラインハルト?」 まだ何も話をしてないのに、口元を手で抑えて横を向かれてしまった。 え、手の平から漏れた、ーークッ、てなんでしょうか? 腰に回した手に力が入って、更に引き寄せられてしまう。 あの、話し辛いので、ちょっと離してほしいのだけど、訴えは却下されてしまった。 がここで負けてしまったら、希望の朝日が遠くなってしまう。 踏ん張って、何とか隙間を作ると、改めてお願いを試みる。 「ラインハルト、私、冒険者登録がしたいのだけれどーーーんむッ!?」 ダメとも、良いとも言われず、返ってきたのは噛み付く様な口付けだった。 ーーーーがぷっと。 酸欠になりかけて、胸元をパシパシ叩いて抗議すれば、やっと放してもらえる。 涙目になってしまって、私が睨んでもラインハルトにダメージは無さそうだ。 「過剰な接触はダメって言ってるのに!」 ラインハルトの過剰摂取は、なんというか、モジモジしたくて仕方がなくなる。 心の中に、頭を掻きむしって、ウキーって走り回る私がいると言うか。 ラインハルトはーーーーこれ位で過剰か?と呟きながら首を傾げるけど、これはれっきとした過剰範囲ですよ! あなたの過剰は一体ドコを彷徨っていらっしゃるのでしょうか、三丁目の交差点で迷ってませんか? 私がそう言うと、『実戦しても良いが?』と恐ろしい事を仰るので秒でお断りしました。 こんな気持ちで前になんて進めない。 「•••••それで、理由はなんだ?」 そう言うラインハルトはちょっと不機嫌だ。 いきなりダメって言われなくて良かったと、思うべきなのかな。 「うーん、理由は••••いくつかあるんだけどね?」 私は素直に考えてた事を言ってみる。 ティティとのパジャマパーティーでも話し合った事だ。 地上で活動するのに、身分を証明出来る物があったほうが良いと思った事、後は私の力の訓練だ。私の場合、実戦が一番早く身に付く。 あの日のパジャマパーティーで、ティティと話し合った事を伝える。 ええ、遊んでばかりいた訳じゃありませんともーーーー!半分は遊んでたけどね。 第一に警戒しなければいけないのは、私の誘拐だと。 あの影の能力は厄介だった。 でもティティと話しているうちに、疑問も湧いてくる。 「あの影って、なんでも【入る】のかな?容量とかの限度って無いのかなって、話になったの」 闇属性の魔力使う人には得意な技らしいけど、限度があるらしいと、ティティは言っていた。 個人差は当然、あるとして。 今考えれば、私を引き摺り込めるタイミングを見計らっていたような気もするし••••多分だけど。 今の私は、力の扉を全開にしても、上っ面の部分だけが発動している状態だ。 ラインハルト達が活火山で、バリバリ噴火エネルギが溢れているとすれば、私は半分以上休火山で、いつもは頑張って温泉湧かしてるよ!この間はちょっと噴煙出してみた的な?程度なのですね、はい。 「つまりですね、神様的エネルギーの質量を上げれば、引き込む事ができなくなるのでは?と愚考致した所存なのですよ」 とりあえずの処方にしかならないかも知れないけど。 誰かが側にいれば私の誘拐は防げるが、どんな状況になるのかも解らない。きっと一人になった一瞬を狙ってくる。 私の質量容量が定員オーバーだったら?ーーーー。 難しい顔をしているラインハルトの左頬にキスを贈る。 これはティティがやってみたら良いと言っていた。渋られた時に有効らしい。 あれ?グッと眉に力が入ってるかも。 うーん、右頬にもしてみるかな。 「••••••わかった。少し、考える」 おお?これは有効打でしょうか。 ラインハルトは、四方八方から感情が飛び込んで、どんな顔をしようか迷った挙句、うっかり苦虫を噛み潰してしまって、でも選んだ笑顔が頑張ったーーーー結果、素晴らしく奇妙な顔を披露した。
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