国境の街

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国境の街

ラインハルトに冒険者登録したいとお願いしてから、数日後。 大騒ぎしながらの準備を終えて、やって参りました!ここはムーダン王国との境、カルラーデン王国側、国境の街ボルサだ。 雰囲気は前世で言う所の、地中海近辺の国に似ていて、空の青さが際立っている。 遠くに見えた国境を示す大きな門は、どことなくアウグストゥス凱旋門を思い出す造りだ。 ここを越えるとムーダン王国で、ムーダンでは北門と呼ばれている。 ムーダンにはもう一つ国境があって、北門の丁度南側にあるのが南門。そして東西は海。うん、単純で覚えやすい。 この南門の向こう側は西大陸に涙形にぶら下がっているーーーー大陸と呼べる程大きくはないけど、南大陸、砂漠のお国が三つある。少し前は四つだったららしいけど。 つまり、西大陸と南大陸を繋げている場所にあるのがムーダン王国だ。 何故直ぐにでも、ムーダンに入らないのかと言うと、情報収集の為。 それからここには手頃な地下迷宮があるらしい。 訓練は終わった筈?とビクビクしながらロウに聞いた所、この迷宮で欲しいものがあるのだとか。 片眼鏡が光らなくて良かったです! でも、ロウに『神殿の舞殿ーーーーの修復に使う素材を弁償するのに、丁度いい物があるんです』と言われて、ちょっと反省。 私はお金になるかなぁと思って神力の篭った玉を作ってみたんだけど、これがしょぼくて落ち込んだのよね。 大穴を開けた御本人様はケロッとしていて、イザとなったらメルガルドの髪でも毟って【精霊王の腕輪】か【精霊王の首飾り】でも作らせれば、どこぞの王様が大枚叩いて買ってくれるって開き直ってたし。 ラインハルトは作らないの?って聞いたら、『お前が身に着けるものならいくらでも』なんて言ってくれちゃうしーーーーもう耳飾りを貰ってるから遠慮します。 店の建ち並ぶ大通りを歩く今だって、ちょっと私が気になったかな?って思った物を購入しようとして、慌てて引き戻すのが大変なんだからね。 フロースは、自分で気に入った物を買うのは良いけど、その手に取った如何にも悪夢を見そうな、呪われそうな仮面、かっこよくないからね?え、カリンも気に入ったの?何故に盛り上がるのか!? ーーーー男の子って良くわからない。 そんな街の賑わう大通りを通って、先ず私達、人外御一行が向かったのは、ざわめきから離れた一角、門からお家がみえません、な邸宅が建ち並ぶ別荘地だ。 こっちに私達が滞在する場所があるんだって。 だけど、ワクワクしていたのも最初の内で、折角だから馬車を使わずに、歩いて景色を楽しみたいなって言った事を即座に後悔しました。 流石に疲れた頃に見えてきた、その一際大きく、如何にも警備が厳重な門扉が目的地らしい。 ーーーーどこぞの王族の持ち物!?って言いたくなる立派な建物だ。 冒険者の身分を用意してくれたディオンストムとロウが、門番の兵に何かを見せていて、チラリと門番がこちらを伺う。 皆、神殿関係者のローブを着ているけど、フードを目深に被っているので、見る人によってはかなり怪しく感じるんじゃないかな。 ローブを見ても知らない人だっているだろうし。 そんな私達を門番さんは、この怪しい団体をどう思ったのか1ミリも解らない表情で、通してくれた。 「さぁ、姫様。こちらの離宮を貸して頂いております故、どうぞ、中でお寛ぎ下さいませ」 私があまりの豪華さにお上りさんをしていると、ディオンストムがそっと種明かしをしてくれた。 この離宮の持ち主はカルラーデンの王太子で、この王太子がなんと、舞殿の観覧席で助けた貴婦人の旦那様だったのだ。 縁ってどこで繋がるか、わからないものだ。 その縁で、王太子と王太子妃が快く貸してくれたらしいけど、折角だから、街のお宿にも泊まってみたかったな。 あ、でも結局、皆が一緒に行くと言って、冒険者パーティーが人外しかいない、大人数になってしまったし、それを考えると、初めの一歩は離宮を借りて良かったのかも知れない。 そう、色々と。 それにーーーー一ディオンストムまで、私の側近になるって言い出して、すったもんだになるかと思いきや、意外とすんなり後継者のレガシアに引き継いだから驚きだ。 以前から準備をしていたと言うけれど•••• 『わたくしのすべてを女神メイフィアに捧げる』 なんて、あのディオンストムに、典雅に言われてしまったら思わず頷いてしまうよね? 爺やキャラが居ても宜しゅう御座いましょう?って、何を目指しているの、ディオンストム。 ディオンストムの退位とレガシアの即位は既に儀式が行われていて、後は代替わりの発表を、大神殿から発表するだけになっている。 あの一件の責任を負う形にもなって、しかも、代替わりによる大規模な移動を理由に、腐敗も一層出来るって、レガシアと悪い顔してたのを見た私に、ディオンストムも腹黒疑惑が芽生えた瞬間だった。 こうしてディオンストムも目出度く?人外メンバーに加わって、こうして一緒に行動している訳だ。 一堂が居間に揃う。 ラインハルトとロウ、新しく側近になったディオンストムは早速神域結界の打ち合わせをしている。 フロースと技芸は部屋を見て回るらしく、自称寝室警備員のチュウ吉先生を伴って探検しに行ってしまった。 あ、ポポがフロースにくっついている。 伸びたり縮んだりしているので、楽しいんだろうな。 私とカリンはモリヤにお茶を淹れて貰い、メルガルドが出したお菓子を摘む。   「ムーダンの国王が崩御したって囁きが、あちこちから聞こえたけどさ、国境の行き来に混乱も動揺も無いみたいだし、随分と上手く情報を管理してるよね」 噂集めが趣味だったカリンさん、流石の聞き耳です。あのざわめきで聞き分けできるなんて、凄い! 「ムーダン側からの不安の伝搬も無かったですしーーーーですが、姫様が気になるのは王弟の事で御座いましょう?」 「うん、まぁ、ね」 会話の合間に食べるお菓子の甘さが口に広がるけれど、気分が苦くなる。 メルガルドが用意したこれはーーーーオリーブの香りが微かにする揚げ菓子は、一口サイズのドーナツみたいだ。 「ああ逃げたっていう?追われてるんじゃ逃げても大変だよね」 即座にそう応えたカリンは、揚げ菓子が気に入ったのか、口の中の菓子が消える前に、二個目を口に放って、メルガルドに行儀が悪いと窘められた。 「今の所、逃亡の事実は漏洩していませんが、王位争い如何では隠せずに露呈しますね」 王位争い。 それにきっとーーーー神殿から消えたサジル王子はこの事態を招く行為にに関与しているんだと思う。 そしてーーーー。 この日はサジル王子の鬱んな笑い声が聞こえた気がして、落ち着かなかった。 ##### 読んでいただきありがとうございました!
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