ドッキリですか

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ドッキリですか

 夢の中、小さな私が誰かと話をしている。  優しく囁くようで、所々が聞こえない。  ーーーー人の世は人が決めなくてはね。  地上で生きてる者にこそーーーー。  ご覧、眩い地上の星々を。瞬く綺羅の光を。  そう言って小さな私の目を掌で覆う。  そこで視えたのは、幾百億の生命の輝き。地上でこそ眩い、瞬きの星と、燃える命達。  ーーーー見守っていたいが、私はもう直ぐ消えてしまうから。  君たちのように産まれて来れたならーーーー。  私は■■■になれなかった。  そう言って、寂しそうに微笑むのは誰?  私は泣きそうになって、何かを言う。  ーーーーね?だから大丈夫!ほら、このお花だって、瘴気に負けないで咲いたのよ!  ゆっくりと首を横に振るその人が、私の頭を撫でて言う。  ーーーーほら、お迎えが来たよ。もうお行き。宮を黙って抜け出してはいけないよ。■■■に見付かってしまうからね。  泣いて目が覚めた。  空はまだ暗い。  一体なんの夢だったのか、忘れてしまったけど、ポロンと弦を爪弾く切なさが残っている。 「フィア、どうした?」  相変わらずのラインハルトに、今は酷く安心している自分がいる。  私が目覚めた気配を感じたのだろう。  こういう時、ラインハルトは直ぐに目を覚ます。 「寂しいーーーー夢、を見た、気がするの」  なんの?とは聞かれなかった。  ただ、そうか、とだけ言って、私の流した最後の涙を口付けて吸い取る。  そのまま、頬に、鼻に、瞼に。  やっぱり最後は、唇に落ちた柔らかい温もりに、私は今は文句を言わなかった。  アストレアの愛してるを聞いたからかも知れない。  言える人がいるのはいい事だ。 「フィア、愛してる」  絶対にわかってて言ってるよね!?  でも今は、頷く代わりに口付けを受け入れた。 「私はラインハルトが好き、とは言えるけど•••••」  綺麗で、カッコ良くて、優しくて。  甘えたら甘えただけ、甘やかしてくれる、そんなの好きになるなって言う方が無理な気がする。  でも、色んな『好き』が混在する中で、唯一に対するモノはあるだろうか。  ラインハルトはーーーーライディオス兄様はきっと、何があっても、私を選ぶ。  じゃぁ、私は?  大切なものがたくさんあって、何かを捨ててもラインハルトをーーーーライディオス兄様を選べるだろうか。  夢の余韻の切なさが、胸に痛みを呼ぶ。  口付けの合間、漏れる吐息ごと喰われる。 「知っているから、何も言わなくていい。何も捨てなくて、いい」  じゃぁーーーー貴方も捨てないで。  言葉にせずとも伝わったのか、ラインハルトの口付けが深くなった。 「お前が全部、抱えてくれているだろう?だから俺はーーーーお前を両手で抱える事ができる」  深かった口付けが、慰めるそれに変わる。  口移しで流れてくる穏やかな力。  月の雫が、凪いだ泉に波紋を広げるように、身体の中を慰撫してくれる。  身を包む肌の温もりと、身の内に巣食った寂しさを包む息吹に、私は再び眠りの園へと誘われる。 「大丈夫だ。ーーーーと、ーーーーは、ならない。俺にはメイフィア、お前がいる」  既に眠りの体制に入っていたからよく聞こえない。 「ん、••••なぁに?」  ラインハルトは、緩く首を振って、私を抱え直す。居心地の良い場所に納まり直すと、チュウ吉先生とポポが隙間を埋めるように、寄り添ってくれた。  モフモフンって、いいよね。  ラインハルトの腕が、一瞬硬直した気がするけど。 「お休み、フィア」  耳朶に掛かった、低い艶のある声を最後に、私の意識はそこで閉じた。  翌朝スッキリと目が冷めた私はポポを肩に乗せて、フロースと伎芸と一緒に、街へ情報収集の続きをする為フラフラと街中を歩く。  ロウとラインハルトは迷宮にお出かけ、カリンとチュウ吉先生も連れて行かれてしまったし、ディオンストムはシャーク殿下の事情聴取で離宮に残った。  メルガルドは南大陸とムーダンの国境で精霊が怒る狂っているとの報告を聞いて、様子を見に行っている。  なのに、本当に、私達はフラフラ歩いているだけだよね、この状況。 「あ、この髪紐、フィーに似合いそうだね。どう?」 「そうか?確かに似合うとおもうが、我なら、こちらの平紐を選ぶぞ」 「「どちらを選ぶ!?」」  ーーーーどちらも可愛いじゃ駄目なの?  ジト目で見るけど、私の意見はスルーなのでしょうか。  そう言えば、伎芸の一人称がいつの間にか『妾』から『我』になってるなぁと思ったら、私の護衛がてら冒険者をするなら、裏の顔である武闘の方が良いだろうと、今の伎芸は武闘神らしい。  性格は変わらずとも、少し好戦的になるらしく、なるほど、凛々しさが増してる気がする。  あれ、でも伎芸は「冒険者のパーティには踊り子は必須!」って言ってなかったっけ?  そんな事を考えていたら、髪紐のバトルは終了したのか、私への贈り物として、二つ購入する事になっていた。  これ位のプレゼンなら、素直に喜べるんだけどな。  可愛いし、とても綺麗で、髪を結うのが楽しみになる。 「ありがとう!すっごく嬉しい!」 「姫様の笑顔が見れるなら迷うた甲斐があると言うもの。ただ、あの男が張り合うと思うとな。少しばかり面倒になるやも知れぬな」 「「あーーーー••••」」 伎芸の言葉に私とフロースの声が揃った。 確かにラインハルトは、迷うとかがない代わりに「そこからそこの端まで全部」とか言いそうだもの。 「アイツはね。うん。ソコの端からアッチの端まで全部!とか言いそうだね。フィアは可愛いから何でも似合う、とか言ってさ。冗談とかじゃなくて、本気でそう思って行動するからね、アイツ」 「「あーー•••••」」 今度は私と伎芸の声が揃った。 すると、この露天の店主なんだろう、男の声が急に割り込んできた。 「へぇーお嬢ちゃんの恋人は気前がいいんだねぇ。是非ここに連れて来てもらいたいもんだ。この店のもの全部買ってくれそうだからね!ワハハッ」 まだ若そうな青年なのに、やけにおじさん地味た言葉を使う人だ。 洒落っ気があって、スタイルも良いようだし、顔も中々の美形さんだ。 なのに、チグハグな印象が、この青年の胡散臭さを醸し出す。 嫌な、気配だ。 伎芸がスッと店主と私の間に入る。 フロースが私の手を握り、ピリッッとした雰囲気を出して威嚇すると、尖った声を出した。 「へぇ?なら連れて来ても良いけど。それで?お代はこの子、とか言わないよねぇ?」 「へぇ、よくおわかりで」 ーーーーはい!?ちょ、フロースいきなり喧嘩ですか? 確かに胡散臭いけど、言い方を少し抑えてーーーー!! ほら、ここは街の往来だからね、人様にご迷惑が掛からないようにしようか。 ん?でも、お代は私って言ったの?この店主は!? 「よう、化けおったな。別人のようだぞ。サジルよ。ああ、流石に名も変えたか?お前のその臭い通り向こうまで届いたわ。可哀想にこの店の店主、そこな木箱に閉じ込めおって」 ーーーーええええ!? 瞬間、店の店主を騙っていた存在が、雰囲気をガラリと変えた。
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