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【第1話】
「お姉ちゃん、大丈夫……?」
私の横で立ったまま、妹の寧音が心配そうに私の顔を覗き込む。
大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば、大丈夫じゃない。
だって、あまりにも意味不明すぎるんだもの。
普段通り仕事を終えて、妹と二人で暮らすマンションに帰ってきたら、リビングで見知らぬ男が二人で寛いでいる状況を普通に受け入れられるハタチの女性がいたら、よほどのビッチだ。
一人は、ソファに座って足を組み、腕も組み、呆然と立ち尽くす私を睨みつけるようにしている目つきの鋭い男。
もう一人は、ソファの上で胡坐をかき、ニコニコしながら私に手を振っている……って、あれ? もしかしてっ?
「な、七咲君っ?」
「覚えててくれたんだぁ。よかったぁ。それにしても変わってないね上田は。パッチリお目目に黒いサラサラのショートボブ、と言えばやっぱり上田サクラだよな」
柔和な口調と表情。中学生の頃から何も変わっていない。
中学校の卒業式で会ったのが最後だから、五年ぶりの再会だけど、すぐに私の初恋相手である七咲君だとわかった。
「久しぶりだね、上田。元気だった?」
「元気だったけど……なんで七咲君がここにいるの……?」
「寧音ちゃんが俺のこと覚えててくれたおかげで、家に入れてもらえたよ」
そりゃ覚えているだろう。
私と七咲君が中3の時、寧音は中1。
同じ中学にいれば、あの『七咲瞬』を知らないわけがない。
というかあの頃、寧音に恋愛相談をしまくってたし。「どうしたら七咲君ともっと仲良くなれるだろう」なんていう無謀な相談を。
すでに七咲君には彼女がいたけど、あまりにも好きすぎて、少しでも気に入ってもらえるように頑張ろうとしてたっけ。
そんな恋愛脳丸出しだった私も、今ではそんな余裕がまったくなく、長いこと恋なんてしてないけど。
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