【第3話】

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【第3話】

 翌日の仕事終わり、コールセンターの職場で唯一の同い年である佐々木妃花(ささきひめか)を誘って、居酒屋へと繰り出した。 「へぇ、サクラが日本有数の御曹司と婚約、ねぇ」  生ビールで乾杯した後、昨日の出来事を説明すると、妃花は気だるそうに答えた。  何事にも鷹揚で、キャピキャピしていないのが妃花の特徴。  そんなところが好きで、私は頻繁に妃花を飲みに誘う。  お金がないので、いつも安居酒屋にはなってしまうんだけど。  妃花とはまだ半年足らずの付き合いとはいえ、私の中ではもう親友のつもりだ。  妃花が言葉を続ける。 「しかも適当に選ばれたわけじゃなく、『お前じゃなきゃダメ』なんて言われた、と」 「そ、そうなの」 「でも、その理由はわからない、と」 「う、うん……」 「挙句、隣りには中1の時に一目ぼれした初恋の男がいた、と」 「……」  第三者の言葉として改めて聞くと、我ながらあまりにもあり得ないシチュエーションすぎて、なんだか急に恥ずかしくなってきた。荒唐無稽にも程がある。  妃花は、特に表情を変えることもなく、淡々と言葉を発している。  嘘だと思っているのだろう。 「やっぱり、信じてくれないよね」  おそるおそる尋ねると。 「いや、信じてるけど?」  意外な答えが返ってきた。
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