【第3話】

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「そ、そうなの?」 「だって、サクラはそういう冗談を言うタイプじゃないじゃん。ってことは、マジなんでしょ?」 「信じてくれてたんだ。その割には、反応薄くない……?」 「別に。いつもこんなもんだよ、私は」  言い終わると同時に、ファーストドリンクである生ビールをやっつけ、すぐさま店員呼び出しボタンを押した。  いつも通り、ここからはハイボールタイムに入るのだろう。  そういえば、妃花がびっくりしているところなんて見たことがないかも。  相変わらずクールな子だ。  店員が駆けつける様子を見ながら、ポツリと妃花が言う。 「で、どうすんの? その契約」 「え?」 「受け入れるのか、断るのか、ってこと」  ちょうど店員が到着する。  妃花は、ハイボールをメガジョッキで頼んだ。  店員が立ち去っても私が何も言わないことに業を煮やしたのか、妃花が追撃してくる。 「そもそも、なんていう財閥の誰なの? 有名なんでしょ?」 「いや、今の日本に財閥っていうのはないから、旧財閥、っていう扱いになるんだけど」 「そんな建前はどうでもいいの! 似たようなもんでしょ。どこの誰なの?」  またもや口を噤んでしまった。  霧島尊流の名前まで出してよいものか。  妃花のことは信用しているけど、政略結婚阻止のために私が選ばれた、ってことまで話してしまった以上、具体名を出すのはまずい気がする。 「ごめん、妃花。名前を出すのはちょっと抵抗があるかな……」 「ふーん。そうなんだ。別にいいけど」  届いたばかりのメガジョッキを手に取りながら、何事もなかったように口に運ぶ。  特に不愉快そうでもない。 こういうサバサバしたところも妃花らしい。  三口ほど飲んでから、メガジョッキをテーブルにドンっと置く。
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