【第3話】

3/3

26人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ
「で、相談の内容ってのは、その御曹司とくっつくべきか断るべきか、ってことだよね?」 「一言で言うとそんな感じ」 「じゃあ簡単じゃん」 「簡単?」 「そ。お金を取るのかプライドを取るのか。突き詰めればその二択でしょ。サクラはどっちを優先したいの?」  さすが妃花だ。芯を食ったことを言う。  薄々気付いていたことを、妃花が明確に言語化してくれた。  生活費や借金、妹の進学、諸々を含めてお金を取るのか。  お金のことなど一切無視して、自分の意地やプライドを優先して断るのか。  結局はそこに尽きる。 「妃花の言う通りだよね。お金を取るか、プライドを取るか……」 「ちなみに私だったら、お金を取るかな」 「え?」  予想外の言葉を放ってきた。  妃花なら、プライドを取るタイプだと思ってたのに。 「プライドだけじゃ生きていけないしね。お金はやっぱり大事だって。サクラも、自分の主義とか信条を大事にしすぎるのはやめた方がいいよ」 「私、そんなに主義とか信条を大事にしてるかな……?」 「してるでしょ。カツアゲの現場に遭遇したら後先考えずに突っ込んでいったり、酔いつぶれてる知らないおっさんを介抱して終電逃したり。良いことしてるのはわかるけど、普通あそこまではやらないって」 「ええ……? そ、そうかな……」 「そうでしょ。特に男同士で揉めてるところに割って入るのなんか危なすぎるよ。それで自分が怪我したらどうすんの?」 「ま、まあ……」  でもあれは、体が勝手に動いてしまうだけで、別に主義でやっているわけじゃない。 ……っていうことを説明したかったけど、余計呆れられそうだからやめておいた。 「とにかく、よく考えなよ。スーパーお金持ちと婚約できるなんて、千載一遇のチャンスなんだからさ」 「だけど、まったく知らない人といきなり婚約っていうのはなぁ……」 「でも、向こうはサクラを知ってるわけでしょ? お前じゃなきゃダメ、なんて言うくらいなんだからさ」 「一方的に知られてるからそれでOK、とはならないでしょ。私からしたら知らない人なんだから」 「案外そのお坊ちゃんも、どこかでサクラが助けた人なのかもね」  なるほど、鋭い指摘だ。  でも、超が付くお金持ちを助けた記憶なんてないんだけどなぁ。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加