【第1話】

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「どうしたの上田? 妙におとなしいじゃん。もっと元気で活発なイメージだったのに」 「いや、あの……」 「おい、瞬。もういいから、さっさと俺に会話のバトンを渡せ」  七咲君の隣りに座るキザったらしい男が、キザったらしいセリフを吐いた。  座っているからはっきりとはわからないけれど、身長はかなり高そうだ。180cmは確実に超えているだろう。  ややカールした黒い短髪がやけにオシャレだ。  キザなセリフを吐くだけのことはある。 「あ、そうか。悪い悪い」七咲君が、私と同じぐらいの長さがありそうな茶色がかった髪をかき上げる。「あのさ、こいつ、霧島尊流(きりしまたける)っていうんだ。知ってる?」  知ってるかどうか聞くということは、有名人なのだろうか?  妙に鋭い目つきだけが気になるものの、美形であることは間違いない。七咲君のようなかわいい系イケメンではなく、クール系のイケメン、といったところか。  もしかしたら名のある著名人なのかもしれないけれど、生憎とまったくわからなかった。 「いや、知らないけど……」 「あ、いきなりフルネームを言われてもわからないよねぇ。霧島グループ、っていえばわかるかなぁ?」  えっ?  旧財閥で、今でも経済界に異常なまでの影響力を持っている、あの霧島グループっ? 「それって、あの――」 「もういい。そっから先は俺が話す」霧島尊流と紹介された男が割り込んできた。「上田サクラ。今日は、お前に用事があってここまで来てやった」  足と腕を組んだまま、偉そうな口調で引き続き宣う。 「面倒くさいのは勘弁だから、さっさと用件だけ話す。――5000万払うから、俺の婚約者になれ」 「……はぁっ?」 あまりにマンガチックでバカらしい申し出に、ついワンテンポ返事が遅れてしまった。
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