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「はじめまして。尊流さんの執事をしております、滝沢と申します。お迎えにあがりました」
霧島尊流から一方的な偽装婚約を告げられたちょうど一週間後の朝、約束通り執事が私の家の玄関に現れた。
霧島尊流や七咲君ほどではないにしろ、結構なイケメンで、歳は20代中盤といったところ。黒髪をオールバックにした、大きな目が特徴的な男性だ。
執事というから、「紳士」という言葉が似合うおじさんやおじいさんが来るのかと思っていたので、面食らってしまった。
「荷造りはお済みでしょうか?」
「あ、はい! 霧島……尊流……さんから、言付かっておりましたので」
言い慣れないセリフ。
そして、あいつのことをなんと呼んでいいのかわからない歯がゆさ。
いろいろ相まって、変な感じになってしまった。
しかし、執事の滝沢さんは平然としている。
「よかったです。あとで業者を寄こしますので、お荷物は今日中に新居へ届きます」
「あ、ありがとうございます」
ここで、私の後ろに隠れていた寧音が、か細い声で訊ねる。
「あのぉ、私の家も、お姉ちゃんたちが暮らす家の近くにあったりするんでしょうか……」
滝沢さんは、にこにこしながらすぐに答えてくれる。
「もちろんでございます。尊流さんとサクラさんが暮らす新居の隣りのマンションに、3LDKの部屋を用意致しました。あとで別の者が迎えにきますので、寧音さんはしばらくここでお待ちください」
約束通り、寧音のマンションも用意してくれたようだ。
それにしても3LDKとは。あの霧島尊流が用意したマンションの隣りならば、かなり豪華なはず。
セキュリティもばっちりだろう。
「あの、その家にバイトの先輩と一緒に住んでも大丈夫ですか? 一人でいきなり知らない場所に住むのが、ちょっと怖くて」
「もちろん大丈夫ですよ。寧音さんの家ですので、わざわざ訊ねたりせず、ご自由にお使いください」
そういえば、「できればバイトの先輩と住みたい」と言っていたっけ。
私としても、いくら隣りのマンションとはいえ、女子高校生の妹に一人暮らしはさせたくなかったから安心だ。
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