【第6話】

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「それでは、参りましょうかサクラさん。今が午前9時ですので……新居へは10時過ぎには着く予定です」  ここから1時間ほどの距離に、新居はあるらしい。  もちろん私は、どこにあるのか、どんな家なのかも知らない。 「あの、滝沢さん。ちょっと訊いてもいいですか」 「もちろんです。何でもお訊ねください」 「今私たちがいるこの場所は、千葉でもわりと田舎の方ですけど……引っ越し先はどこになるんですか?」 「東京都港区でございます」  ――やっぱり。なんかそんな気がした。 ***  寧音に見送られながら、私は滝沢さんが運転する車に乗り込んだ。 「先ほどもお伝えした通り、お荷物は、こちらで手配した業者がすべて滞りなくお運びしますので、心配はございません」  上品な言葉と上品な振る舞い。  滝沢さんの一挙手一投足には、つい目を奪われてしまう。  貧乏街道をひた走ってきた私にとって、未知の世界の人だ。  霧島尊流だって、本来はこういう振る舞いができる人なんだろうけど、今のところ私の前では傍若無人なところしか見せていないので、いまいちピンとこない。  時折、言葉の中に配慮を感じることはあるけど……。 「曲がる時のスピードなど、運転に不備などございましたら、ご遠慮なくお申し付けください」  何これっ?  こんな世界があるのっ?  曲がる時のスピードなんて、意識したこともなかった。  タクシーに乗った経験なんて数えるほどだけど、体がもっていかれるほどの急スピードで曲がってくれる方が、早めに目的地に向かおうとしてくれている良いタクシードライバーだと思っていたほどだ。 「あ、大丈夫です」  私に返せる言葉など、この程度だった。
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