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「なお、これは極秘事項ですので、決して他人には話さないでください。相手が雫さんだということをこちら側で知っているのは、尊流さんと尊流さんの両親、僕、サクラさんの5人だけです」
「じゃあ、七咲君も知らないんですか?」
「当然知りません」
「あの……そんなレベルの人を相手に、私なんかでお役に立てるんでしょうか……」
「サクラさんは、尊流さんが選んだお方ですから、僕は信用してますよ」
なんともプレッシャーのかかる一言を頂戴してしまった。
そもそも、霧島尊流本人が、西条雫さん本人にズバっと言えばそれで済む話じゃないのだろうか。
と思っていたら。
「尊流さんの父上である霧島隆造氏に対して、霧島グループの人間が逆らうことはできません。それは尊流さんも同じです。今回の結婚は隆造氏が決めたことですから、ひっくり返すのは大変だと思いますが、サクラさんならきっと実現してくれると信じています」
なるほど。強権的な父親には、あの霧島尊流でも逆らえないのか。
となると、私と婚約したフリをしても無駄なんじゃ?
霧島隆造から「別れろ」と言われたらそれまでのはず。
霧島尊流に、何か考えがあるのだろうか。
それよりも謎なのが、なぜ私がいきなりこんなにも信用を得ているのか、という点だ。
素直に聞いてみることにした。
「あの、滝沢さん。なんで私が選ばれたんですか? なんでそこまで私のことを信用してくれるんですか?」
「それは……おいおい尊流さんが伝えてくれると思います。今、僕の口からは言えません」
予想はしていたが、やはり教えてもらえなかった。
初めて霧島尊流に会った日、私のことを『適当に選んだのではない』と言っていた。
選んだ理由は答えたくない、とも。
であれば、執事である滝沢さんが話せるわけはない。
一番知りたかったことがわからなかったのは残念だったけれど、これ以上根掘り葉掘り訊ねるのも悪い気がしたので、そこからは黙って車に揺られることにした。
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