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お金を払うから婚約しろ?
いつの時代の金持ちなんだこいつは。
こんなことが今でも平然と行われているのだろうか。
不快感をたっぷりとまぶした私の「はぁっ?」が気に障ったのか、霧島尊流は語気を強めた。
「何か不満でもあるのか? 霧島グループの御曹司である俺の婚約者になるだけで、5000万円が手に入るんだぞ。お前みたいな貧乏人にとっては、喉から手が出る話だろうが」
痛いところを突いてくる。
確かに、私と寧音は幼い頃から貧乏に悩まされていた。
見た目こそまあまあ良いものの、ロクに働かず、酒を飲んでは家で暴れる父親のせいで、日々食うや食わずの生活。
のちに知ったことだけど、稼ぎもないのに愛人まで作っていたらしい。外見がそこそこなら、無一文のアル中でもいいと判断する女がいるんだ、と驚いたっけ。
ちなみに生活費は、母親のパート代でなんとか賄うような状態だった。
そんなどうしようもない父親だったけれど、私が小6の時に酒が原因で病死した。
良い記憶など微塵もなく、ただただ嫌悪の対象でしかなかったから、亡くなった時にはむしろせいせいしたというのが正直なところだった。
でも、霧島尊流はなぜそんなことを知っているのだろう。
うちが貧乏だったことは確かだけど、あまり言わないようにしていたし、母親も、貧乏であることを悟られないように最大限の努力をしてくれていた。
それなのに……。
「悪いが、調べさせてもらった。お前が小6の時に酒乱の父親が亡くなり、高2の時には母親も亡くなったよな」
その通りだった。
特に放つ言葉もなく、霧島尊流の次を待つ。
「妹である上田寧音の学費や生活費を稼ぐため、お前は高校を中退して働きに出た。だが、母親が死んで3か月経ってから、借金があることが判明した。父親がギャンブルや酒や女で作った借金と、母親が生活のために作った借金、合わせて約2000万円。そうだよな?」
「なんで、そんなことまで知ってるのよ……」
「3か月間泳がされた後、貸金業者どもが乗り込んできたんだろ? 基本的には、相続の開始から3か月経つと借金も放棄ができなくなるからな。いいようにやられたもんだな」
あまりに人を小馬鹿にしたような態度と言い方に腹が立ち、睨みつけながら言い返す。
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