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「まあいい。――さっき聞いただろうけど、明日はお前の服を買いに行く」
あ、なんだ、その話か。
安堵し、自然と表情が緩む。
「ああ、なんか言ってたね。でも、別にそこまでしてもらわなくてもいいよ。もうお金はいただいたわけだし、服を買うなら自分で買いに行くよ」
そうなのだ。
宣言通り、二回目に霧島尊流が私の家へ訪問した翌日、本当に私の口座へ5000万円が振り込まれていた。
ゼロの桁が異次元すぎて、何度も確認しちゃったっけ。
私の殊勝な態度に、さすがの霧島尊流も柔和な返答をせざるを得ないだろうと思っていた。
――が、甘かった。
「お前のための買い物じゃない。俺が恥ずかしい思いをしないためだ。俺の隣りを歩くのにふさわしい服を買うんだから、費用はこっちで出す」
「え……? わ、私、そんなにみすぼらし――」
「当然だ。でもそれはお前のせいじゃない。気にするな」
なんだろう、この複雑な気持ち。
自分の都合で服を買うのだからこちらが出す、という主張にある程度男気を感じるものの、その理由が、私の服装がみすぼらしいから。
みすぼらしいとまで言われれば頭にくるのが自然だけど、それはお前のせいじゃない、と一応フォローはしてくれている。親の借金などのことを言っているのだろう。
プラスとマイナスの感情が絶妙にブレンドされたこの妙な気持ちをどう消化すればいいのかわからず、引きつった顔で霧島尊流を見ることしかできなかった。
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