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テーブルを彩る豪華な品々を前に、いそいそと席につく。
そして、早速目の前にあるフレンチトーストにかぶりつくと、霧島尊流がおもむろに喋り始めた。
「突然だが、七咲瞬のことはどう思ってる?」
ブホっ! とむせそうになりながらも、口内のフレンチトーストを吹き出さないように必死で堪える。
「どうした? 随分動揺してるな」
モグモグ、ゴクン、とした後に、慌てて口を開く。
「ど、動揺なんてしてないし! いきなり変なこと言うから、むせただけだし!」
「まあいい。――で、どうなんだ?」
「どうって、七咲君のこと?」
「そうだ」
「どうもこうもないよ。中学の時の同級生、っていうだけで、それ以上でも以下でもないし」
ある意味、これは本当だ。私と七咲君の間に、何か特別な関係があったことなど一度もない。
「じゃあ、特別な感情は持ってないんだな?」
「……」
まずい、黙ってしまった。
早く返事をしないと。
特別な感情はない、とだけ言えばいいんだ。
急げ、私。
「どうした?」
「えーっと、その……」
「早く言え」
「……七咲君に対して、特別な感情があるかないかで言えば、ある、かな……」
否定しなきゃいけない、と思いつつも、つい正直に伝えてしまった。
今のセリフは、言っちゃいけなかったのかもしれない。
普通に考えれば、霧島尊流とは金銭契約のもとで婚約者のフリをしているだけなのだから、七咲君に好意を持とうが持つまいが関係ないはず。
でも、私の自惚れかもしれないけど、霧島尊流は多少私に興味を持ってくれているんだと思う。
私を婚約者役に選んだのが偶然ではないことや、私が結婚したいと言えば結婚する、なんて言ってくるあたり、アピールに思えてならない。
そう考えると、ここで激怒されてしまう可能性もある。
場合によっては、今この瞬間に契約を破棄されるかもしれない。
――いや、それならそれでいい! 別に私は悪いことなんて言ってないんだから!
覚悟を決めて身構えていたのだけれど、霧島尊流の返答は実にあっさりとしたものだった。
「ふーん、そうか。わかった」
表情からは、特に怒りも落胆も窺えない。
いつもの無表情な霧島尊流だ。
しかし、そこからは一切喋りかけてくることはなく、もちろん私からも話しかけられず、フォークと食器が接触する無機質な音だけが広いダイニングに虚しく響いていた。
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