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「アンタに関係ないでしょっ? ほっといてよ!」
「関係あるだろ。俺が渡す5000万があれば、借金が消えるだけじゃなく、今後の妹の学費や生活費も心配なくなる。悪くない提案だろ?」
確かにそうだけど……。
でも……。
「そう睨むな。まあ、聞け。――俺は、旧財閥にありがちな政略結婚の憂き目に遭いそうになってる。相手の女と面識はあるが、恋愛感情を持つには難しい奴だ。そんな女と結婚させられそうになっている。それを回避するための緊急避難的な方法として、お前との婚約を考えてる」
「政略結婚を……避けるため……?」
「そうだ。だから、一応『疑似的な婚約』ということになるな。だが、周囲には婚約したと告げるから、場合によっては入籍まで必要になるかもしれない。それを考慮しての高額な報酬だ。多少戸籍が汚れるとしても、5000万の報酬なら文句ないだろ?」
あまりにマンガチックな話すぎて、キョトンとすることしかできなかった。
お金持ちが政略結婚を避けるために、適当な女性と婚約する。
なんなのだそれは。到底納得がいく行動ではない。
「あのさぁ、それって自分勝手すぎない?」
「……どのへんが?」
「さっき、政略結婚の相手に対して、『恋愛感情を持つには難しい奴』って言ったよね」
「ああ、言った」
「私のことだって、何も知らないじゃん。いきなり恋愛感情なんて持てないでしょ?」
「あのなぁ……。話を聞いていたのか? お前とは金銭的な契約のもとで婚約するんだから、別に恋愛感情なんて持つ必要はないだろ。少しは考えてからモノを言え」
「――じゃあ、もし私が、疑似婚約中にあんたに恋愛感情を持っちゃったらどうしてくれるの? 私が別れたくないって言ったら? それでも平気で捨てるの?」
決まった! と思った。
こいつは結局、いつでも都合よく捨てられる女が欲しいだけなんだ。
だったら、いざとなればゴネる女なのだという印象を与えれば、尻込みするはず。
――という予想は、大胆に裏切られた。
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