【第9話】

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「特別な感情がある、って言ってたな」 「……うん」 「何を気まずそうにしてる。まるで、俺がお前に好意を持っているかのような反応だな」 「え? 違うの?」  つい、ポロリと漏らしてしまった。 「当たり前だ、バカ」 「……」 「だから、変な勘違いで俺に気を使ったりしないで、今後も七咲とは好きなだけ連絡を取れ。いいな」 「うん、わかった」どういうトーンで返答していいのかわからず、小声でぼそりと呟いた。  今の霧島尊流の言葉は、どっちなんだろう。  強がりなのか、本当に私に興味なんてないのか。  お得意のポーカーフェイスを決め込んでいるので、本心がまったく読めない。 「わぁ、すごっ……」  霧島尊流と滝沢さんに連れられ、表参道にある高級ブランドの旗艦店に入ると、中は浮世離れした空間と化していた。  見るからに高そうなバッグ、芸能人以外に誰が着るのかと思えるような派手な服、目の玉が飛び出るような金額が設定されているアクセサリー類など、ついこの前までの私とは無縁の物品がオシャレに陳列されている。  霧島尊流と滝沢さんは、早速服選びを始めた。  そこからは、まさに地獄だった……。  試着に次ぐ試着、白い手袋をはめた上品な店員への愛想笑い、高級店ゆえの常に気を抜けないプレッシャーなど、肉体的にも精神的にもどんどん疲弊していく。  2時間ほど、おとなしく着せ替え人形を演じていると、霧島尊流から待望の言葉が。 「まあ、こんなところか」  ようやく終わったらしい。 やっと解放される……。  ホッと安堵するも。 「よし、次行くぞ」  地獄は続くらしい。
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