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「それで、尊流とは仲良かったの?」
「良かったよ。こっちは一時的な成金、向こうは日本有数の大金持ち、ってことで全然釣り合ってなかったんだけど、なぜか尊流とはウマが合ってね。尊流の親は、成金の息子である俺のことなんて嫌いだっただろうけど、子供同士ってそこまで意識しないじゃん?」
「そうだよね」
「だから、幼稚園の頃はよく遊んだし、俺が公立に通うようになってからも、たまに連絡を取り合ってた。高校の時はちょっと疎遠だったけど、上田のことがきっかけで、また交流が復活した、って感じかな」
「そうだったんだ。――あと、尊流の子供の頃って、どんな印象だった?」
「……」
あれ?
七咲君が黙り込んでしまった。
何かまずいことでも聞いたかな……?
と思った矢先、いつものようにニコリと笑ってから話し出してくれた。
「とにかく、芯が強いっていう印象だね。幼稚園の頃から、一度たりとも泣いた姿を見た事がないんだ。あいつ、金持ちすぎるから最初は浮いてて、軽くイジめられてたんだけど、それでも無表情でしれっとやり過ごしてた」
「そう、なんだ……」
あの尊流にも、そんな時期があったなんて。
だから、格闘技を始めたのかな。自分の身を自分で守れるように。
「そんなことより、上田は今の状況、どう? 嫌な思いとかしてないか?」
「……してないよ。七咲君の言う通り、尊流って意外といい奴だった!」
今朝の出来事を除けば、と言いたかったけど、それはあえて伏せた。
なぜか、口にしたくなかった。
「本当か? 無理してるんじゃないのか?」
「全然! 私、そういう我慢ってできないから、嫌だと思ったら出ていくし。だから心配ないよ」
「そっか。よかった。――でも、もし無理だと思ったら、遠慮せずに尊流の家から出て行けよ。それで……もし上田さえよければ……」
「えっ……」
七咲君が珍しく笑みを消し、俯いている。
『上田さえよければ』ってどういうこと?
何を言おうとしてるのっ?
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