【第12話】

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 固唾を呑みながら次の言葉を待っていると。 「いや、ごめん、なんでもない」  七咲スマイルで誤魔化されてしまった。  え? なに、なに? 超気になる!  うざいことを覚悟で追撃する。 「さ、最後まで言ってほしいな。すごく気になるよ」 「駄目だよ。まだ早い。言うべき時がきたら言うよ」  これってもう、半分以上言ってしまってるようなものではないだろうか。  だってこんなの、こんなの……準告白じゃん!  そんな言葉ないだろうけど、このシチュエーションにぴったりな言葉だと思えた。  しつこいと思われてもいいから、なんとかして続きを聞きたい。  そう考えたのだけれど、まるで追及を避けるかのように七咲君は慌てて食べ終わった二人分のお弁当をビニール袋に入れて縛り始めた。 「じゃあ俺、一旦ゴミを捨ててくるよ。ちょっと待ってて」  言うと同時に、七咲君はベンチから立ち上がり、どこかへ走っていってしまった。  逃げられちゃった……。  でも、あれ以上追及しても無駄だっただろうなぁ。  七咲君を待っている間、ふと広場の方へ目を向けてみる。  10メートルほど前で、小学生くらいの男の子と大学生くらいのお姉さんが交互にサッカーボールを蹴り合って遊んでいた。  姉弟かな? 微笑ましい姿だ。  しばらく眺めていると、奥にいた男の子が強めにボールを蹴ったのか、お姉さんが受け止められず、ボールが私の方に転がってきた。  頭を小さくペコリと下げながらお姉さんが走ってくる。 「ボール、失礼しました~!」  立ち上がり、目の前にあるボールを拾いながら、「全然大丈夫ですよ」と伝えると、お姉さんは私の前で立ち止まって息を整えながら、ニコリと笑い、再び頭を下げた。  私からボールを受け取るお姉さん。  すると、すぐさまボールを男の子の方へポーンっと投げた。 「ケイ君~! ごめん、お姉ちゃんちょっと休憩! 一人で遊んでて~!」 「わかった~!」  男の子がボールを足で受けながら、軽快に返事をした。 「ふぅ、疲れた。すごく元気な子なので、相手するとすぐに息が上がっちゃって」 「小さい子って、無限かと思うほど体力ありますもんね」 「あ、すみませんけど、ちょっとこのベンチで休んでもいいですか?」 「もちろんです。どうぞどうぞ」  お姉さんは、またペコリと頭を下げながらベンチに座った。 私もお姉さんの左隣りに座り、何気なくお姉さんの顔を見る。  思わず声が出そうになった。  遠目からでも美人であることは察していたけれど、近くであらためてよく顔を見てみると、とても一般人とは思えない目鼻立ちで、長いサラサラの黒髪も、シャンプーのCMに出れるのではないかというほど綺麗だった。  なおかつ、とても良いにおいがする。 「……何か?」 「いえ、何でもないです! 失礼しました! ごめんなさい!」  まずい、ジロジロ見すぎてしまった。  恥ずかしさのあまり、お姉さんとは反対方向へと首を向け、気を落ち着けようとした。  ――その時だった。 「泥棒猫のくせして、失礼なことをしたと思ったらちゃんと謝れるんだね。えらいえらい」  お姉さんがいる方向から、物騒なワードを盛り込んだセリフが聞こえてきた。  え? という声とともに、反射的に首を右へ向けると、そこには、先ほどまでの美しく柔和な雰囲気を完全に消し飛ばしたお姉さんが、私を激しく睨んでいた。 「はじめまして、上田サクラさん。あたしは西条雫。あなたから婚約者を奪われそうになっている者です」
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