【第13話】

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「やっ……た……とは?」 「バカなの? 抱かれたのかって聞いてるのよ」 「い、いやいや! 全然ないっす! 清々しいほどにないっす!」  右手をブンブン振りながら、全力で否定した。  全力過ぎて、思わず体育会系のような口調になってしまった。  答えを知って安心したのか、少し表情が綻んだ。 「あっそう。ひとまず信用しておくわ。嘘がつけないまっすぐな性格だって話だし」  怖っ!  この人はどこまで私のことを調べているんだろう。 「じゃあ、引き続き尊流君には手を出さないように。いいわね」 「了解です……」  まあ、ここはおとなしく同意してもいいだろう。  もとから、体の関係は結ばないという約束だったわけだし。  これで西条雫の溜飲が下がり、立ち去ってくれるなら……。 「もしかして、これで話が終わっただなんて安心してないでしょうね」  エスパーかこの人。  人はお金を持ちすぎると、変な力が備わるのだろうか。  尊流も、やたら洞察に長けている感じだし。 「尊流君とヤらないなんてのは大前提の話。大事なのはここからよ」 「はあ……」 「できるだけ早く、かつ自然な形で、尊流君との偽装婚約を破棄してマンションから出ていきなさい」  驚きのあまり、言葉を失った。 なんで偽装婚約のことまで……。  偽装かどうかなんて、見ただけじゃわからないはず。  尊流と私は本気で恋してるかもしれない、とかって考えないわけ?  こんな貧乏女に、尊流が本気で付き合うわけないっていう決めつけ?  そんなことを考えていたら、いつの間か驚きよりも怒りが勝ってきた。
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