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私の心境の推移など気にかけず、西条雫が偉そうに宣う。
「あたしはね、欲しいと思ったものは絶対に手に入れるタイプなの。残念だけど、最終的に尊流君は私と付き合うことになるわ。偽装婚約なんて無駄だから、さっさとやめなさい」
「……政略結婚なんですよね? 雫さんも、嫌々結婚させられるんじゃないんですか?」
「全然。あたしは、尊流君のことを心底愛してるの。幼稚園の頃からずっとね」
ここで、意外な情報が飛び出してきた。
幼稚園の頃から尊流が好きだった?
ってことは、尊流と七咲君と西条雫は三人とも幼稚園からの幼馴染?
情報の整理をしていると、西条雫が畳みかけてくる。
「これでわかったでしょ。あたしは、好んで尊流君と結ばれたいと思っているの。だから、早急に身を引きなさい。――あたしが警告するのは一度だけ。もし警告を無視すれば、身の保証はないと思いなさい」
後半は、かなりドスの利いた低い声だった。
このかわいい顔からこんな怖い声が出るものなのかと疑いたくなるほどの。
それにしても、何、この物騒な脅しは。本気で言ってるのだろうか。
一応確認してみる。
「あの、身の保証はしない、ってどういう意味ですか?」
「そのまんまの意味よ。もっとストレートに言おうか? ――五体満足でいたかったら、さっさと引き下がれっつってんの!」
尻上がりに声のボリュームが上がっていった。
ヒステリックかつ暴力的な響きに気圧され、何も言い返せない。
なんなのだこの女は。
相当ヤバい奴なのでは……。
私のビビリっぷりを見て満足したのか、西条雫はスクっと立ち上がり、「ではごきげんよう」と言い捨てて、男の子の方へと戻っていった。
ほぼ同時のタイミングで、別方向から七咲君がこちらへ走ってくる姿が見えた。
ホッと胸を撫でおろす。やっと帰ってきてくれた。
愛用の白いトートバッグを手に取り、私も七咲君の方へと駆け寄った。
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