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「尊流の政略結婚の相手って、西条雫だろ?」
「な、なんでそれをっ……あ!」
ドンピシャで言い当てられてしまったことに驚き、思わず、認めるようなことを口走ってしまった。
「そうだったのか。あの西条雫か」
もう駄目だ。
今から誤魔化すことはできないだろう。
終わりだ。私は、契約違反をした。
帰宅したら、素直に尊流にすべてを話してから謝って、どんな処分でも受けよう。
もちろん、5000万円だって返す。契約を破ったんだから。
借金返済とかでだいぶ減ったけど、これから地道に働いて返済すればいいんだ。
私の神妙な面持ちを見てすべてを悟ったのか、七咲君が優しく語り掛けてくれる。
「政略結婚の相手、口止めされてたんだろ? だから、罪悪感に苛まれてるんだよな?」
「……」
「大丈夫だよ、上田。俺は誰にも言わない。そもそも、上田がペラペラ喋ったわけじゃないじゃん。俺が勝手に言い当てたことに驚いて、無意識に反応しちゃっただけだろ? そんなの、人間として自然なことなんだからしょうがないよ」
「な、七咲君……」
脳内での懺悔を暖かく包み込んでくれるような言葉に、目に涙が溜まる。
「泣くなって。上田は悪くない。これは間違いないことだから。ね?」
私の手を握りながら、この上ない優しいトーンで囁くように言ってくれた。
「ありがとう。本当にありがとう」
溜まっていた涙が次々と零れ落ちてきた。
泣くなと言われても無理な相談だ。
鬼のように怖い脅しを受けた直後の、初恋の人からの温かいフォロー。涙を流すためのお膳立てが整いすぎている。
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