【第2話】

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【第2話】

 霧島尊流が去っていく姿を呆然と見送る私と寧音。 「ごめんね、急に」  間を埋めるように、七咲君がポツリと言う。  寧音と同時に振り向くと、いつも通りの七咲君の笑顔がそこにあった。 「尊流はさ、あんなんだけど、実はいい奴なんだ。初見じゃ伝わらないだろうけど、そのうちわかると思うから、もしよければ付き合ってやってくれないかな?」  私の目を見据えながら、肩の近くまであるユルフワな髪をかき上げる。  ああ、なんてセクシーなんだろう。  中学の頃の憧れが蘇ってくる。 「――ダメかな?」  七咲君に見惚れていると、確認が入った。  霧島尊流と付き合えるのかどうか、という確認だろう。 「……な、七咲君は、なんでそんなに霧島尊流君に肩入れするの?」 「あいつとは、幼稚園の頃からの知り合いでさ。いわゆる、幼馴染ってやつ」  どういう経緯かまではわからないものの、七咲君と霧島尊流との関係については知ることができた。  旧財閥レベルの金持ちとでも、思わぬ形で懇意になるというケースはあり得るだろう。  そんなことより……なんで私が選ばれたのっ?  そこだけがどうしてもわからない。 「あのさ、七咲君。霧島君との関係についてはわかったんだけど、なんで私が彼の婚約者候補になったの?」 「ああ、それね。そりゃ不思議に思うよね」  あっけらかんと、欧米人がよくやる「WHY?」的なジェスチャーを繰り出す七咲君。 「なんかね、尊流が言うには、どうせ婚約しなきゃいけないなら上田がいいんだって」 「えっ?」 「詳しい理由は教えてくれなかったけどさ、適当に選ばれたわけじゃないみたいだよ」  霧島尊流も、さっき同じようなことを言っていた。  私じゃなきゃ駄目だ、と。  幼馴染である七咲君の身辺を調査した結果、この話に食いついてきそうな貧乏姉妹がいたからピックアップした、といった類の話だと思っていたのに。
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