26人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ
「大丈夫か?」
「あんまり、大丈夫じゃ、ない、かも」
「だよな……。くそっ! 尊流の政略結婚の相手が雫だと知ってたら、上田を紹介したりしなかったのに。ホントごめん。俺のせいで……」
「違うよ! 七咲君のせいじゃない。最終的に契約を受け入れたのは私なんだから。実際、もらったお金で借金返済できたり、寧音の学費の心配がなくなったりっていう恩恵も受けたわけだし」
「いや、俺の責任もでかい。――こうなったら、少しでも早く身の安全を確保できる状態を作ろう」
「でも、どうすれば……」
「とりあえず、今日のことは尊流に内緒にしておいた方がいい。雫とは会ってないってことにしよう。バレたら、いろいろ面倒なことになるかもしれない。あくまで、俺と二人で会って、他愛もない話をした、それだけの日だった。いいね?」
「わかった」
「で、何日かしたら、『やっぱり偽装婚約生活はできない。もう出ていく』ということをやんわりと伝えるんだ。もとから、出ていきたくなったらいつでも出ていってOK、っていう契約だったよね。あと、出ていってもお金は返さなくていいとも言ってたはずだよ」
初めて尊流と会った日に、確かにそう言われた。
あの場に七咲君もいたから、覚えているのだろう。
「うん、それははっきりと言われたけど……。でも、本当にお金をもらったままでただ出ていくっていうのは……」
「いいんだよ。それが契約ってもんだ。契約書なんてないかもしれないけど、口約束も立派な契約として法的に認められるんだよ。法学部に通ってる俺が言うんだから間違いない」
「そうなの?」
「ああ。とはいっても、誰も証人がいなければ、言った言わないの水掛け論になるから、口約束だけの契約はあんまりおすすめできないけどね。でも今回は、俺っていう証人がいる。あと、寧音ちゃんもいたしね。二人もいる場で宣言した契約なら、完全に有効だ」
知らなかった。口約束だけでも契約が成立するなんて。
であれば、証人が二人もいれば問題はないのだろう。
すぐに私が出ていったとしても、お金を返す必要もなければ、責められる筋合いもないことになる。
だけど……。
最初のコメントを投稿しよう!