【第14話】

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「大丈夫か?」 「あんまり、大丈夫じゃ、ない、かも」 「だよな……。くそっ! 尊流の政略結婚の相手が雫だと知ってたら、上田を紹介したりしなかったのに。ホントごめん。俺のせいで……」 「違うよ! 七咲君のせいじゃない。最終的に契約を受け入れたのは私なんだから。実際、もらったお金で借金返済できたり、寧音の学費の心配がなくなったりっていう恩恵も受けたわけだし」 「いや、俺の責任もでかい。――こうなったら、少しでも早く身の安全を確保できる状態を作ろう」 「でも、どうすれば……」 「とりあえず、今日のことは尊流に内緒にしておいた方がいい。雫とは会ってないってことにしよう。バレたら、いろいろ面倒なことになるかもしれない。あくまで、俺と二人で会って、他愛もない話をした、それだけの日だった。いいね?」 「わかった」 「で、何日かしたら、『やっぱり偽装婚約生活はできない。もう出ていく』ということをやんわりと伝えるんだ。もとから、出ていきたくなったらいつでも出ていってOK、っていう契約だったよね。あと、出ていってもお金は返さなくていいとも言ってたはずだよ」  初めて尊流と会った日に、確かにそう言われた。  あの場に七咲君もいたから、覚えているのだろう。 「うん、それははっきりと言われたけど……。でも、本当にお金をもらったままでただ出ていくっていうのは……」 「いいんだよ。それが契約ってもんだ。契約書なんてないかもしれないけど、口約束も立派な契約として法的に認められるんだよ。法学部に通ってる俺が言うんだから間違いない」 「そうなの?」 「ああ。とはいっても、誰も証人がいなければ、言った言わないの水掛け論になるから、口約束だけの契約はあんまりおすすめできないけどね。でも今回は、俺っていう証人がいる。あと、寧音ちゃんもいたしね。二人もいる場で宣言した契約なら、完全に有効だ」  知らなかった。口約束だけでも契約が成立するなんて。  であれば、証人が二人もいれば問題はないのだろう。  すぐに私が出ていったとしても、お金を返す必要もなければ、責められる筋合いもないことになる。  だけど……。
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