【第16話】

6/6

27人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ
「ごめん。どうするかは、保留、でもいいかな?」  逃げだった。  現段階では真実がわからない以上、明確に返答することはできない。  もしかしたら、尊流だって自分に都合のいいように言っているだけかもしれない。  尊流のことは基本的に信用しているけれど、それを言い出したら、七咲君のことだって信用している。  本当に、どうすればいいんだろう。 「俺は縛るのも縛られるのも嫌いだ。保留、というのがお前の答えなら、それを優先すればいい」  やっぱり尊流はブレない。  言ってくれると期待していた言葉をそのままくれる。 「ありがとう」 「ただ、俺は雫との結婚だけは絶対に避けたいと思ってる。保留中であっても、そこの協力だけは忘れるなよ」  そうだった。  偽装婚約の目的は、そこにあったのだ。  改めて自覚した。 「うん、もちろん! それは契約だし、そもそもあんなヤバい女との結婚は絶対にやめた方がいいから、全力で協力する! それは約束するから!」  すると急に、尊流が小さく呟いた。 「別に、そこまで悪く言うほどの女じゃないんだけどな」  え? どういうこと?  頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされたけど、声のトーン的に独り言に近いような感じだったので、わざわざ聞き返すこともないと思って何も言わなかった。  でも、気になる。 「身の保証はしない」なんていうとんでもない脅しをかけてくる女が、そこまで言うほど悪くない?  どういうことなんだろう。  私の沈黙が気になったのか、尊流が補足するようにポツリと漏らす。 「雫も、被害者なんだ」 「西条雫が、被害者?」 「ああ。俺と同じだ」 「どういうこと?」  しかし尊流は、一切口を開かなくなってしまった。  何度か、ねえ、どうしたの、といった問いかけをしてみたものの、軽く視線を下げたまま口を真一文字に結んでいる。 「……わかったよ。もう訊かない」  尊流は、悪い、とだけ言ってから、自分の部屋へと戻っていった。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加