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「ごめん。どうするかは、保留、でもいいかな?」
逃げだった。
現段階では真実がわからない以上、明確に返答することはできない。
もしかしたら、尊流だって自分に都合のいいように言っているだけかもしれない。
尊流のことは基本的に信用しているけれど、それを言い出したら、七咲君のことだって信用している。
本当に、どうすればいいんだろう。
「俺は縛るのも縛られるのも嫌いだ。保留、というのがお前の答えなら、それを優先すればいい」
やっぱり尊流はブレない。
言ってくれると期待していた言葉をそのままくれる。
「ありがとう」
「ただ、俺は雫との結婚だけは絶対に避けたいと思ってる。保留中であっても、そこの協力だけは忘れるなよ」
そうだった。
偽装婚約の目的は、そこにあったのだ。
改めて自覚した。
「うん、もちろん! それは契約だし、そもそもあんなヤバい女との結婚は絶対にやめた方がいいから、全力で協力する! それは約束するから!」
すると急に、尊流が小さく呟いた。
「別に、そこまで悪く言うほどの女じゃないんだけどな」
え? どういうこと?
頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされたけど、声のトーン的に独り言に近いような感じだったので、わざわざ聞き返すこともないと思って何も言わなかった。
でも、気になる。
「身の保証はしない」なんていうとんでもない脅しをかけてくる女が、そこまで言うほど悪くない?
どういうことなんだろう。
私の沈黙が気になったのか、尊流が補足するようにポツリと漏らす。
「雫も、被害者なんだ」
「西条雫が、被害者?」
「ああ。俺と同じだ」
「どういうこと?」
しかし尊流は、一切口を開かなくなってしまった。
何度か、ねえ、どうしたの、といった問いかけをしてみたものの、軽く視線を下げたまま口を真一文字に結んでいる。
「……わかったよ。もう訊かない」
尊流は、悪い、とだけ言ってから、自分の部屋へと戻っていった。
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