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ホッとした様子で七咲君がぽつりと漏らす。
「ありがとう、信じてくれて嬉しいよ」
「ううん。本当にごめんね、疑ったりして」
「大丈夫だよ。誤解が解けたんならそれで充分だ。――でも、謎は残ったままだよね」
「誰が、待ち合わせ場所を西条雫に漏らしたか、ってこと?」
「そう」
「うーん……」
確かに、それだけが謎だ。
七咲君じゃないとすると、一体誰が……?
それに、何の目的で……?
「あのさ、上田。答えられる範囲でいいから教えてくれないか。口止めされてたり、言ったらまずそうなことは伏せてくれて大丈夫だから」
「あ、うん。わかった……」
「尊流の家の場所を知っている人間は何人いる?」
「えっと、確実なのは、尊流と私と、住み込み家政婦の園田さんと、執事の滝沢さんと、あと妹の寧音、の5人かな」
「なるほど……」
七咲君は、腕組みしながら思案に暮れている。
「どうしたの?」
「……いや、雫が俺たちの待ち合わせ場所を知ってた件なんだけど、俺はやっぱり、誰かが上田を尾行して、雫に知らせたんだと思う」
「尾行して場所を知らせる……。でも、誰が? 尊流本人はもちろん、尊流が誰かにやらせたっていうことはないよね。わざわざ偽装婚約をバラすようなものだし」
「ああ、尊流はあり得ない。家政婦の園田って人もないだろうな。住み込みってことは、尊流に無断で長時間家を空けることなんてできないはずだから」
「そうだよね」
「……ちなみにその日、執事の滝沢って人はどこにいたの?」
「えっ?」
「家にいた?」
「いや、いなかった、けど……」
「その滝沢って人は、偽装婚約のことももちろん知ってるんだよね?」
「知ってる、けど……もしかして、滝沢さんを疑ってるのっ?」
思わず顔を近づけながら、大きな声を出してしまった。
驚いたのか、七咲君が言葉に詰まっている。
「ねぇ、答えて!」
「……うん、疑ってる。今のところ、滝沢って人以外に該当者がいない」
なんということだろう。
寧音の予想と同じだ。
昨日の夜、『あり得ない』とか『バカじゃないの』みたいなこと言わないでよね、と前置きした後、寧音は滝沢さんの名を口にした。
七咲君じゃないのならば、他に該当するのは滝沢さんしかいない、と……。
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