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「嘘、でしょ……。滝沢さんが……」
「もちろん、今の段階ではただの予想だよ? ――だけど、あり得ない話じゃない」
あの滝沢さんが、裏切り者?
にわかには信じられない。
――そう思う反面、意外に冷静な私もいた。「確かに、あり得ないとまでは言えないな」と。
実のところ、私は滝沢さんのことについてほとんど知らない。
ここ数日、表面上の付き合いをしただけであって、プライベートではどんな人なのか、まったくわからないのだ。
だから、裏の顔があっても何ら不思議はない。
いつの間にか、自分の体が小さく震えていることに気付いた。
知らないところで何かが巻き起こっている、という底知れぬ恐怖感からだろうか。
でも、なんで滝沢さんが偽装婚約を壊そうとするんだろう。
その疑問を七咲君にぶつけてみると。
「理由はいろいろ考えられる。例えば、実は尊流を恨んでいるとか、尊流の両親から依頼されたとか、西条雫に買収されたとか」
どれも可能性がゼロとは言えない。特に、尊流の両親から何らかの指令を受けているという予想は現実的だ。
それにしても、あの滝沢さんが……。
そんなことを考えていると、七咲君が声のボリュームを上げた。
「なんにせよ、上田のやることは一つだ」
「え?」
「一刻も早く偽装婚約を破棄して、尊流の家から出るんだよ」
そういえば、前回七咲君と会った時も、そういう話で決着したんだった。
「俺としては、上田に、これ以上陰謀渦巻く中にいてほしくないんだよ。雫からの攻撃に怯えながら、他にもはっきりしない敵がいるような状況でさ」
「……」
「上田だって怖いだろ?」
「う、うん。怖い、かな」
偽りのない本心だった。
巨大な何かに巻き込まれているような感覚に陥り、無性に恐ろしくなってきたのだ。
「俺の予想では、尊流に偽装婚約破棄を告げたとしても、特に問題はないはずだ。あいつ、不愛想で態度も悪いけど、根はいい奴だからさ。上田が自分で決めたことなら、尊重してくれると思う」
こんな時でも、尊流のことを悪く言わない七咲君のまっすぐさに、妙に救われた気分になった。
「そうだよね! 尊流って、意外と隠れた優しさ? みたいな? そういうのあるもんね!」
すると、突然七咲君の表情が曇った。
「あれ? 私、何か変なこと言った……?」
「いや、そうじゃないけど。――ちなみにさ」
「え?」
「尊流に対して、特別な感情が芽生えたりしてる……?」
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